退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】稲増龍夫『グループサウンズ文化論 - なぜビートルズになれなかったのか』(中央公論新社、2017年)

60年代後半に一大ブームを起こした「グループサウンズ」とは何だったのかを解き明かす意欲作。

ただし「文化論」とあるが、紙幅の大半は岸部一徳近田春夫、宇崎竜童、すぎやまこういちコシノジュンコらとの対談に費やされていて、終章に30ページ足らずの論考が載っているにとどまる。それでも対談でグループサウンズの実相を明らかにしていこうとするアプローチは正攻法だし、新しい発見もいくつかあった。例えば80年代のチェッカーズジューシィ・フルーツがGSの延長上にあるという指摘はなるほどと思った。

個人的に共感したのは、筆者が近田春夫の深夜ラジオ「パック・イン・ミュージック」(1980.4-1981.9)に刺激を受けてグループサウンズに興味を持ったという点だ。私自身も、このラジオ番組を地方で聞いて強い影響を受けた。大学進学時に上京することになった一因でもあった。もっとも筆者は放送当時、すでにいい歳じゃなかったのかとも思うが、時間的に自由だったのだろうか。

まあ実際、60年代文化をリアルタイムで経験していない人には、グループサウンズが何だったのかわからないだろう。筆者は、当時の若者文化の基盤にあった「左翼教養主義」というか、「左翼的でないとかっこよくない」という流れがあったと対談のなかで繰り返し述べている。それゆえ、主体性も思想性もなく商業的だったグループサウンズは評価されてこなかったという。この感覚を肌で理解できるほは「団塊の世代」ということになるのだろうか。

口絵には筆者のレコードコレクションのジャケ写真がずらりと並んでいる。ちょといい外国車が買えるほどの金額を投じてGSシングルレコードのパーフェクトコレクションを達成したそうだ。どの楽曲がグループサウンズだと、だれが決めたのかと思っていると、収集範囲は黒澤進『熱狂!GS図解』に依拠しているとあった。権威あるリストなのか気になるところだ。

いまが、グループサウンズに関わった人たちにインタビューできる最後の時期かもしれないと考えると対談集は貴重だが、すでに時を逸した気もする。本書でも言及されていたが、何よりザ・スパイダースで活躍したムッシュかまやつ御大に話を聞けなかったのが惜しまれる。他にも関係者の訃報が伝えられているので、もう少し早い時期に展開してほしい企画だった。

余談だが、読後、筆者の紹介いた「マイフェイバリットB級GS」全7曲のプレイリストを作ろうと思いついた。7曲中6曲はすでに手元に音源があった。アダムス「旧約聖書」の音源があったのは我ながら驚いた。プレイボーイ「シェビデビで行こう」だけ欠けていたので補完してリストを完成させて時折聞いている。

本書を読んでどんな音楽だろうと思った人もいるだろう。音楽は聞いてみないと始まらない。このリストの7曲だけでも聞いてみるとよいだろう。以下にリストを挙げておく。EPレコードを集めるのは大変だろうが、音源の入手は比較的容易である。みんなで聞こう!

  • シェビデビで行こう/プレイボーイ
  • レッツ・ゴー・レインジャーズ/ザ・レンジャーズ
  • 旧約聖書/アダムス
  • 赤毛のメリー/ザ・ガリバーズ
  • ヘイ・ミスター・ブルーバード/ブラック・ストーンズ
  • イカルスの星/ザ・ラヴ
  • トンネル天国/ザ・ダイナマイツ

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