表紙に「持たない幸福論」という文字を見て、当初いま流行りのミニマリストの本かと思ったが予想を大きく超える内容だった。
たしかに「物はできるだけ持たないようにしている。持っている物が多ければ多いほど、いろいろと身動きがしづらくなったり思考が狭められてして、人生の面白さが減るような気がするだけだ。」などと書いているのでミニマリストという側面もあるのだが、もっと哲学的ともいうべき内容を含んでる。
筆者は、「生きることに本当に大切なこと」として以下の2点を挙げている。
- 一人で孤立せずに社会や他人と繋がりを持ち続けること
- 自分が何が好きか、何をしているときに幸せを感じられるかをちゃんと把握すること
なるほどと感心するが、その一方で「あー何もしたくない。毎日寝て暮らしていたい。」などと書いている。必ずしも上の「生きることに本当に大切なこと」と相反するものではないが、これでいいのだろうかとも思う。
「働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない」というのが筆者が到達した生き方であり、それぞれについて理屈が述べられていてなかなか面白い。かつては「家族」と「会社」しか社会のの中でいる場所がなかったが、いまは他の選択肢もあるという分析には説得力がある。
またカネをかけずに楽しむ方法もいくつか紹介されていて参考になる。図書館を活用したり、サイゼリアで時間をつぶしたりするくだりは共感した。
日本の若者の多くが、このようなライフスタイルを是として本当に実践すると日本は潰れるかもしれないが、このような生き方を認めて社会が包摂していく余裕がこれからの日本にあってほしいものだ。
以前、筆者の『ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』(技術評論社、2012年)という本を読んだ。そのときの私の読書メモには「京大卒のニート。国費の無駄遣い…」などと書きつけたあった。
本書のあとがきに、「京大を出てまともに働かず貧乏暮らしをしているのはもったいない」などいう人に対して反論していて、「おっ」と思った。そこには以下のように記してある。
僕が大学受験や大学生活で得たものは本を読んだり学んだりすることの面白さや勉強の方法やコツで、今の僕の生活はその得たものを十分に活用できていると思う。何かを学んで身に付けて活用する、そのやり方さえ忘れなければ、どこに行ってもわりとなんとかなんとかやっていけるものだと思っている。
私がメモを書き付けたときの思いは、京大まで行って国費で勉強したのに、もっと社会に還元しろよ、と言いたかったのだがまあいいだろう。ひさしぶりに面白い本を読んだ。オススメです。