意外に知られていない奨学金の実態。日本の公的奨学金制度の問題点と返済に苦しんでいる人たちの実態と救済策を明らかにする。著者はこの問題に長年取り組んできた弁護士。
- 作者:佳治, 岩重
- 発売日: 2017/02/01
- メディア: 単行本
新しい気付きがたくさんあった。とくに、2004年に日本育英会から変わった日本学生支援機構の奨学金制度は民間資金が導入されたため、すっかり「金融事業」に変貌していたのには驚いた。日本育英会ののどかな雰囲気から一転して厳しい取り立てがなされている。低利の貸出ながら回収率は高く、なかなか美味しいビジネスになってい様子だ。
また大学を卒業してもまともな仕事に付けず、生活するのさせ苦しく奨学金を返す意志はあるが返せない人の事例も紹介されている。本人は大変だと思うが、こちらはあまり同情できない。
たしかに本書が指摘するとおり日本の奨学金制度や厳しい労働環境には問題が多い。しかし奨学金を安易に借りるという選択をしたのは学生自身である。現状にどのような問題があろうが、それを考慮して本当に返済できるのか十分考慮のうえに借り入れるべきであることは言うまでもない。
事例紹介には進学先や専攻など詳しいことは書いてないが、その大学の卒業生の進路を見れば、だいたい将来が見えるはず。少し調べればFランク大学に進学したところで将来が明るくないことはすぐに分かる。安易に奨学金を借りてもペイしないことに事前に気づくべきだろう。
公的奨学金制度に問題があるとすればそれは政治問題だ。誰の責任かと言えば学生に責任はないにしろ、親世代には当然責任があるとし、さらに言えば国民全体の責任だろう。どんどん貧乏になる日本で奨学金制度を改善できるのは大いに疑問である。
せめて将来に国益に質するだろうトップ校の学生には、もっと手厚い奨学金制度があってもいいだろうが、明らかに勉強に向いていない学生には進学を思いとどまるように進路指導することが必要だと思われる。とにかくヘンテコな大学が多すぎる。
またすぐにもできる施策としては、有利子の奨学金については「奨学金」という名称を使うことを禁止したらどうだろうか。「学資ローン」という名称にすれば借り手も少しは慎重になるかもしれない。