退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】筒井冨美『女医問題ぶった斬り! 女性減点入試の真犯人』(光文社新書、2019年)

「女医」をキーワードに医療現場の問題に切り込んだ一冊。知らない世界を見るという点から面白く読んだ。

女医問題ぶった斬り!  女性減点入試の真犯人 (光文社新書)

女医問題ぶった斬り! 女性減点入試の真犯人 (光文社新書)

東京医大の入試不正事件をきっかけに、女性受験者の減点操作が明るみに出て大きく取り上げられた。この本を読む前は医学部が男性の医学部生がほしいのは、入試が事実上の就職試験になっている医大入試の特殊事情によるのだろうぐらいに思っていたが、問題はもう少し複雑だった。

筆者は「新研修医制度」「新専門医制度」といった制度に内在する問題を取り上げている。医学部の女性合格者が絞られてたのは、とくに「新研修医制度」導入による影響が大きいという。また医師の地域や診療科の偏在もこうした制度に原因を求めることができると指摘していてなるほどと思った。

医師不足と叫ばれて久しいが、厚労省が医師需給分科会で推計を作成していることを、この本で知った。分科会で医師のマンパワーを算出するにあたり、女医のマンパワーを男性医師のそれに比べてどの程度に見積もっていたと思うだろう。答えは「女性医師は男子医師の0.8人分」だそうだ。実際はこれよりも少ないと見るむきもあり、「女3人で男1人」とする見方も紹介されている。女医がいかに戦力にならないかということだ。

こうしたなかで入試で男女の扱いを「公平」にすれば、女医が増えるのは自明であり、上記の事情により全体の医師のマンパワーは低下することは避けられない。現在でも医師不足なのにますます状況は悪化する。どうするつもりなのか……。

医大が男性を入試で優遇していたのにはもちろん動機があった。医療現場で男性医師を確保するためだが、入口だけ「公平」にしても、出口からあとも改革しなければ医療現場が混乱するだけなのは、素人にもわかる。

にもかかわらず、この本で取り上げられた「女医問題」が世間で広く議論されることなかった。ポリコレによりところも大きいのだろう。「公平」な入試で入学した学生が医療現場に登場するころにも現在の問題はそのまま放置されているのだろうか。ちょっと暗澹たる気持ちになる。

この本では問題点を指摘するだけでなく、「女医の使い方」と称して対応策を提案しているのはよい。実現可能性はわからないが、耳を傾ける価値がある内容が含まれているように思う。

あと刺さったのは、医師と言えでも社会保障制度に依存していて、日本が衰退したら医師もオワリという指摘。EUの医師は他のEU諸国で商売できるそうだが、日本の医師が海外で商売するのは、そう簡単ではなさそうだ。医師免許もプラチナチケットとは言えない時代が来るのだろうか。既にデキる受験生は海外の一流大学に進学する時代だ。思った以上に時代の変化は速い。

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