退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】牧村康正、山田哲久『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社、2015年)

日本アニメの金字塔「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーとして知られる西崎義展の評伝。すばりタイトルの通り「狂喜の沙汰」と言ってよい人生です。表紙のインパクトもすごい。

読みどころはやはり「宇宙戦艦ヤマト」をヒットさせる過程です。アニメについてはまるで素人なのに、優秀なスタッフを集め、ブレーン・ストーミングを重ねてあれだけのテレビアニメをつくり、さらに劇場作品を仕立てて自ら配給ルートを開拓して、マーケティングを仕掛け成功者としての栄光をつかむ様子が詳細に述べられています。

西崎がすごいのは大企業の看板を背負ったプロデューサーではなく、常に個人プロデューサーだったことです。リスクを背負ってビジネスをやっているので迫力がちがいます。これまでのアニメとはまったく違った作品を世に送り出すことができたのは覚悟のちがいがあったのでしょう。ただし、そうしたキレイ事だけでなくドロドロした暗黒面も書かれていますが、どの業界もそうした面はあるでしょう。

そしてポスト・ヤマトの路線を模索するがいずれの作品もうまくいかずに苦悩するあたりは胸に迫ります。いまもって西崎が「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーと言われる所以ですが、その頃の失敗した作品をいま観てみたい気もします。個人的にはアニメ「宇宙空母ブルーノア」(1979)や、本田美奈子の主演映画『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』(1987)などはどう感じるのか興味あります。Huluあたりで配信してほしいものです。

その後、2つの刑事事件で逮捕され実刑判決を受け収監されます。覚せい剤と銃刀法違反ですから笑えません。それでも出所後には受刑中に暖めてきた「復活編」を製作します。そして海難事故で死亡するのですが壮絶な人生です。

最終章には関係者たちの西崎についての人物評が載っています。そのなかで富野由悠季をして「アニメ界で敵だと思っていたのは西崎だけ。死んでもその敵意はかわらない」と言わしめています。それだけでも、すごい人だったんだなと思いますね。

文字通り日本アニメの画期となった「宇宙戦艦ヤマト」を産みだしのが、どのような人物だったのか興味のある人は一読の価値があります。スタッフの行状と作品は別物だという意見もあるでしょうが、きっと驚きと発見があるでしょう。