近くのシネコンで映画『日本のいちばん長い日』(2015年、監督:原田眞人)を見てきた。正直、日本映画を封切りで見るのはハードルが高い。今年は戦後70年でもあるし、旧作である岡本喜八版(1967年、東宝)が好きだということもあり足を運んでみた。なのでどうしても岡本版と比べてしまう。
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2016/01/06
- メディア: Blu-ray
大戦末期、戦況が絶望的になった1945年4月に鈴木貫太郎内閣が終戦内閣として発足。その後、8月14日の御前会議で御聖断をもとにポツダム宣言を受諾して降伏を決める。そのときから、8月15日正午に玉音放送で国民に終戦を知らせるまでの「日本のいちばん長い日」を描く。
新作でよかったと思ったのは、昭和天皇(本木雅弘)の人物像がしっかり描かれたこと、そして最新の映像技術で終戦時が再現されたことだ。
岡本版の頃は、昭和天皇を前面に出すことはまだ畏れ多く難かったのだろうが、本作のように終戦時の昭和天皇を描くことができたのは年月を経たことの証でもあろう。本木の演技もいたずらにモノマネに走ることもなく好感が持てた。
また岡本版は白黒映画だったが、今回はもちろんCG映像を含むカラー映画。さすがによく撮れていて映像に見応えがある。映画館のスクリーンで鑑賞してよかったと思えた内容だが、細部については時代考証を含め「あれあれ」と思うこともあった。いずれ詳しい人のオーディオコメンタリー付きで鑑賞してみたいものである。
そして、いちばん岡本版と違うのは、旧作が東宝オールスターによる群像劇だったのに対し、本作は主に昭和天皇、鈴木貫太郎(山崎努)、阿南惟幾(役所広司)の三人にフォーカスした構成になっている点である。旧作では、内閣に笠智衆、三船敏郎、宮口精二、山村聰、志村喬などのそうそうたる役者たちが顔を揃えているのに比べると本作はかなり淋しい。
一方、本作は鈴木貫太郎や阿南惟幾の家族たちが登場し、家族人としての鈴木、阿南を描いていることが特筆できる。これは好みだろうが、なんでも家族愛に収斂させてしまうのは最近の風潮はどうかとも思う。もっとシャープな映画が見たかった。
さらに気になったのは、登場人物を絞って話が分かりやすくなると思ったが、話のつなぎ方がマズいのかまったく分かりにくい。後半の山場である宮城事件では近衛師団のニセ命令のあたりはあらかじめ事件の内容を知らないと、さっぱり分からないのではないか。
私が鑑賞したときの観客は比較的年配の人が多かったが、若い人にどのくらい分かったのか聞いてみたいものである。
もう一つ言えば、新作では本土決戦を主張しクーデーターを企てた畑中健二(松坂桃李)たち青年将校たちの心情を新しい解釈で映像化してくれるのではないかと期待していたが、それが果たされていないのは不満。本作でもファナティックというか、ちょっとおかしい人たちという域を出ていない。戦後70年を経てもう少し踏み込めなかったのだろうか。
余談だが映画館で「終戦の詔書」をもらった。なかなかナイスなプレセントでした。多謝。
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