DVDで映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』(2011年、監督:成島出)を鑑賞。半藤一利の監修による、聯合艦隊司令長官・山本五十六元帥の実像を描いた戦争映画。主演は役所広司。
先日、新文芸坐の「三船敏郎特集」で映画『連合艦隊司令長官 山本五十六』(1968年)を見たが、そういえば役所版もあったなと思い見直してみた。たしか封切り時に見に行った記憶がある。
主演の役所広司は、器用で何を演じても上手いためか、日本映画の大作の多くに出演している。そのためかこれという当たり役がないように思う。山本五十六役と言えば、3度も五十六を演じた三船敏郎のイメージが強いが、本作では役所が人間味あふれる五十六を好演して印象に強く残った。水饅頭やしるこなどを食べるシーンがとくにいい。ちなみに役所は、『日本のいちばん長い日』(2015年)でも、かつて『日本のいちばん長い日』(1967年)で三船が演じた阿南惟幾役を演じている。
この映画は世論を煽動するマスコミの姿が描いているのも特徴である。さすがに「東京日報」という架空の新聞であるが、香川照之が演じる新聞主幹がこれまでかというほど国民を煽り立てる。そして終戦後は手のひらを返すように「民主化」を唱える変わり身のはやさには呆れるばかりだが、主幹のうめきも聞こえてくるような演出で彼の苦悩も感じれた。
また海軍の意思決定プロセスもいい加減すぎる。対米開戦の方針を決める重要な会議の席で、五十六が対米戦の見通しを軍官僚たちに問いただすが、データに基づく議論もないまま「大勢の意見がこうだから」という理由で押し切られ開戦が決まる。日本の会議では、正当な意見が通らないず、結論ありきなのは今も昔もあまり変わらないのかもしれない。
「こんなことやってたら日本負けるわ」と呆れる場面が次々に登場する。「戦争はやってみないとわからない」という軍部高官が放言するに至っては怒りすら覚える。
それでもやはり、五十六が死に場所を求めるように無謀な視察に赴き、途中ブーゲンビリアで戦死するあたりは、責任放棄したのではないかと思ってしまう。生き残って少しでもましに終戦が迎えられるように尽力すべきだったし、戦後も後進の育成などやるべきことがあったろう。
五十六の搭乗機が撃墜されて、しばらく余韻に浸っていると、玉音放送が流れて終戦を迎え、焼け野原となった東京がスクリーンに映し出される。五十六が何を思って死地に赴いたのか考えさせるいい演出だった。
全般的に時代考証がよくできているし、五十六の人間像もよく描けていて、戦闘シーンのCGも及第点だった。平成に撮られた戦争映画として秀作といっていい。好きな映画のひとつである。