夏になると見たくなる映画がある。岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(1967年)である。白黒映画。橋本忍の脚本が冴えている傑作。
半藤一利によるノンフィクションが原作。昭和天皇や鈴木貫太郎内閣の閣僚たちが御前会議において日本の降伏を決定した1945年8月14日の正午から宮城事件、そして国民にラジオの玉音放送を通じてポツダム宣言受諾を知らせる8月15日正午までの24時間を描く。
この映画にやたらと「承詔必謹(しょうしょうひっきん)」という言葉で出てくる。これは、聖徳太子の十七条憲法に出てくる語で、「詔を承けては必ず謹め(みことのりをうけてはかならずつつしめ)」と訓読される。「いったん詔(天皇の命)が下されたならば必ず謹んで従え」と解釈される。
映画では、終戦の御聖断が下ったからにはそれに従えという文脈で使われている。これに対して、「本土決戦」を画する陸軍の一部が反乱を起こす宮中事件が描かれる。
この映画は毎年名画座で見ることが多かったが、「しょうしょうひっきん」と聞いて、映画館なのですぐに調べることもできなかったし、何のことだろうとわからなかった。しばらくしてDVDでこの映画を見ると、ありがたいことに字幕がついていて「承詔必謹」だとわかった。
そのほかにも戦前の難解でよくわらなかった言葉も確認できた。この映画は1967年に公開されているが、観客はセリフをを解したのだろうか。まだまだ戦争を経験をした人が多く、問題なかったのだろうか。スタッフが観客の媚びる必要もなかった時代だったのかもしれない。
たまにはDVDでセリフをじっくり確認しながら映画を見るのも悪くない。