タイトルどおり宝塚歌劇の経営に長年携わった著者が語る「宝塚歌劇の経営戦略」です。経営幹部ならでは情報が満載であるだけでなく、宝塚歌劇をよく知らない人にもわかりやすく書かれています。
宝塚歌劇は阪急電鉄の強大なバックアップがあるとはいえ、現代は劇団単体での独立採算で結果が求められる時代。利益追求のため様々な方策がとられています。ここまで書いてもいいのかと思われる情報も載っていますが、ファンサイドから見える生徒の人事や公演の演目などの劇団の行動は、すべて利益追求の結果だということがわかります。
興味深いと思ったのは、宝塚歌劇では演劇興行の常識である「ロングラン興行」ができないということです。初期投資を回収し損益分岐点を越えたヒット作は、長く興行を続ければそれだけ利益が見込めます。
しかし宝塚と東京にある自前の劇場で5組の興行をローテーションしている宝塚のシステムではそれができない。公演を延長すれば確実に集客できることがわかっていても、それができないジレンマがあります。それを補うのが「全国ツアー」とのこと。目からうろこでした。
この本の後半では、宝塚歌劇とAKB48を比較しながら、今後のエンターテイメント・ビジネスを考察しています。比較チャート(p.191)がわかりやすいので、ぜひ参照してみてください。
一例を挙げると、心理的アクセスについて以下のように分析しています。宝塚歌劇には「ファン会」の存在感、大劇場の「銀橋」から〈結界〉があるする。一方、AKB48については、いつでも会いにいけるアイドル、250席のAKB48劇場を挙げ、その〈近接性〉を指摘してます。「結界」vs. 「近接性」という対照性は腑に落ちる分析に思えます。
筆者自身の貴重な経験に裏打ちされた本であり、広くエンターテイメントビジネスに興味のある人にオススメできます。「ロマンと算盤」という帯が付いていますが、夢の世界といえど事業継続性がないと100年も続かないということでしょう。
なお筆者は阪急電鉄の鉄道現場での勤務経験もあり、電車の運転手の免許も持っているとか。鉄道から宝塚歌劇までを仕事にしたとは、うらやましいすぎるキャリア。趣味的に憧れる人も少なくないでしょう。