退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【諫早湾干拓】水門開けても、開けなくても公金が支払わるテイタラク

1997年の鋼鉄の扉を約300枚を次々に落下させて堤防を閉めきった映像は、「ギロチン」と呼ばれるほど衝撃的だったので、いまでも覚えている人も多いだろう。しかしいまだに諫早湾の水門を開けろだの開けるなだと紛糾していることに驚いた。

そして、ついに下の記事のように国は水門を開けても開けなくても開門派、反対派のどちらかに制裁金をは払わなけいけない異常状態になったようだ。なぜこうなったのだろう。

長崎地裁が4日、国営諫早湾干拓事業長崎県)の排水門を開ければ 国に制裁金を科す間接強制を決めた。開門しなければ制裁金の 支払いを命じた佐賀地裁決定からわずか2カ月弱での真逆の結論。
この日、原告の営農者らは開門阻止に向け気勢を上げ、開門派の 漁業者側は開門を命じた確定判決に従わない国を改めて批判。両者から 突き上げられる事態に、国は沈痛の表情を浮かべ、泥沼の状態を際立たせた。


Source: http://mainichi.jp/select/news/20140605k0000m040102000c.html

そもそも干拓事業が紛争の元凶という見方もあるが、ここではその当否は問わない。なぜ司法手続きで争いを解決することができなかったのかを見ていきたい。

相反するする裁判所の判断

まず佐賀地裁が4月11日、水門の開門を命じた福岡高裁確定判決(2010年)の履行を促すため、6月11日までに開門しない場合、勝訴した漁業者に開門するまで1日当たり計49万円を支払うよう国に命じる間接強制を決定した。

一方、長崎地裁は6月4日に反対派が国に対し、開門差し止めを命じた長崎地裁の仮処分に従わず開門した場合、制裁金2500億円の支払いを求めた「間接強制」について、開門した場合、1日あたり49万円を支払うよう国に命じる決定を出した。

このように互いに相反する裁判所の判断により、国は板挟みになった格好だ。

なぜ最高裁で黒白を付けないのか

ここで疑問に思うのは、なぜ最高裁で決着をつけないのかということだ。開門は国としては到底受けいることはできないのに、なぜ上告しなかったのだろう。それは、菅直人首相(当時)の政治判断だった。

市民運動あがりの首相が思いつきそうなことだが、2010年12月15日、民主党菅直人首相(当時)は記者団を緊急に集め、潮受け堤防の開門調査実施を命じる福岡高裁控訴審判決を受け入れる方針を表明してしまう。そのため、開門を命じた福岡高裁の判決が確定する。痛恨の極みである。どちらの訴訟も最高裁まで上がれば矛盾する判決は出なかっただろう。周りにいる実務家たちは、判決が確定することで大変な事態になることを伝えなかっただろうか。

しかも開門することを政治判断するなら党として水門を開ければいいものを、それすらやらずに放置した揚げ句、民主党政権は選挙に大敗して終焉を迎える。無責任もここに極まった。

そして泥沼状態になり税金が消えていく

では諫早湾干拓問題は結局どうなるのだろうか。下の記事のように確定判決に沿って制裁金が国から開門派に支払わることになりそうだ。

高裁決定に基づき、12日から開門するまで漁業者49人に対し、1人当たり1日1万円(計49万円)の支払い義務が国に生じる公算が大きい。月に換算すると約1500万円、年間で約1億8000万円の巨額の税金が投じられることになる。

Source: http://mainichi.jp/select/news/20140607k0000m040147000c.html

これだけこじれたら話し合いによる解決も難しいだろうし、開門すると塩害被害により干拓地の農家からこれを上回る賠償金を請求されそうだ。もう完全にデッドロックである。そして、未来永劫年間1.8億円の公費が消えていくことになる。

まあ、比較的傷が浅くすんで良かったと喜ぶべきなのか。もはや諫早湾干拓事業には、ムダな公共事業の実例として教材として役に立ってもらうしかなさそうである。

http://www.flickr.com/photos/32521675@N05/4370573749
photo by Brent 2.0