図書館から借りてきて、ぼちぼち読んでいた『アドルフに告ぐ』を読了する。手塚治虫の晩年の代表作。
第二次世界大戦前後のドイツおよび日本を舞台に、アドルフの名を持つ3人の男たちを軸にした壮大なスケールで描く大河ドラマ。日独のハーフであるアドルフ・カウフマン、ユダヤ人のアドルフ・カミル、そして独裁者アドルフ・ヒットラーの3人である。加えて、日本人記者の峠草平が狂言回しで登場する。
「ヒットラーがユダヤ人の血を引く」という設定で、その秘密文書をめぐるミステリーでもある。多数の人物が登場する群像劇として、最後まで飽きずに読めるが、途中でいつのまにか消えてしまった登場人物が何人かいるのは残念。
戦後、パレスチナに舞台が移る終盤は、やや拙速に物語が展開して、あっけなく終わってしまうのは物足りない。あとがきを読むと、連載休載の影響もあり作者自身も必ずしも納得して出来ではなかったことが窺える。途中までは本当にすばらしいので、十分に時間をかけて終盤を書き残してほしかったという思いが残る。
それでも戦中派の作者が「戦争の不条理」を描いた渾身の大作で、いまの時代に読んでも古さを感じさせない。命を大切にする手塚漫画の真髄を読み継いでいきたいと思わせる力のある傑作である。