三田紀房によるコミック「アルキメデスの大戦」(全38巻)を読了。今週発売された第38巻をもって完結した。終盤は毎月のように新刊が刊行されており、「やけにペース速いな」と思ったものだ。
この漫画は、2019年に菅田将暉主演で実写映画化されて話題になった。とくに冒頭の戦艦大和の沈没シーンは評価が高い。原作漫画のファンだった私は、続編を心待ちにしていたが、いまのところその気配はない。
そうしたなか原作漫画が完結したが、正直言って終盤が駆け足で驚いた。途中までの勢いはどこに置き忘れたのか。ミッドウェー海戦での惨敗のあと、すぐに終戦となり、その後は主人公が戦犯としてGHQから取調べを受ける立場から回想する形で進んでいく。ラスト前の第37巻の表紙画の囚人服が印象的だが、作者はやる気がなくなったのかとすら思った。
ミッドウェー海戦のあとも日本の敗戦にいたるまで、「沖縄戦」「東京大空襲」「原爆投下」などなど、いくつも歴史上のイベントがあったはずだが、ほとんど触れられずじまいだったのは残念。さらに言えば、日本が終戦を受け入れるプロセスも描いてほしかった。とくに昭和天皇が不在なのが不満だった。
本作では、主人公はミッドウェー海戦以後、閑職に追いやられて飼い殺しになっていたことが語られるが物語としてはまったく面白くない。結局、「戦争をうまく負ける」という目論見は無惨に失敗することになる。まあ歴史が簡単に変わっても困るが……。一人の天才がいかに優れた戦略・作戦を立案しても、日本軍の旧弊な組織のなかでは活かされることはなかった、というオチである。
ラストで時代は一気に現代に飛ぶ。主人公は戦犯として収監されていたが、10年ほどで釈放されて、その後、東工大で数学者として教鞭を取ることになる。老齢となった主人公は回想録を出すことになり、そのインタビューで、日本が「また新たな激動の時代に入ったと思う」と語る。このあたりは昨今の世界情勢を受けて上手いというべきか。
しかし、もう少し面白く描けたのではないか。終盤の拙速ぶりは惜しいと言わなければならない。