退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『アルキメデスの大戦』(2019) / 数学で戦争を止めようとした男の物語

近くのシネコンで映画『アルキメデスの大戦』(2019年、監督・脚本:山崎貴)を見てきた。原作は三田紀房の原作コミック。映画化されると聞いたときから原作ファンとしては気になっていた映画だが、コミック原作の実写化映画はリスクが高いのでどうしようかと思っていた。そんなとき映画館で予告編を見て映画館まで足を運んでみた。

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1933年、欧米列強に対抗するため軍拡路線を歩み始めていた日本。海軍は、世界最大の戦艦の建造計画を進めていた。海軍内にはこれに反対する勢力もあり、「今後の主力は航空戦力になる」と予想する山本五十六少将(舘ひろし)は、戦艦建造計画の見積もりのウソを見抜くためひとりの男に目をつける。100年に一人の天才と謳われた、元・帝大数学科の櫂直(菅田将暉)である。櫂は当初乗り気ではなかったが、山本五十六の「巨大戦艦を手にした日本は必ず戦争を始める」という言葉に動かされる。櫂は少佐に任官して、戦艦建造計画を阻止するために動き始めるが……。


映画『アルキメデスの大戦』予告【7月26日(金)公開】

まず冒頭に戦艦大和の轟沈シーンを配置したのは見事。この映画の扱っている時代は、主に開戦前なので戦闘シーンは出ていこないはずである。しかも戦艦大和の建造計画を巡る攻防がテーマなのに、その戦艦大和が沈むシーンをこれまでみたことのないCG映像で再現して、これを冒頭に持ってきた構成は冴えている。このシーンを予告で見なければ、封切りでは見なかっただろう。

主人公の櫂直少佐を演じた菅田将暉もよかった。コミックの実写化では、登場人物のイメージが損なわれることも多いが、キャスティングの妙なのか、菅田将暉の演技力なのか今回はイメージどおりだった。こういうことはめずらしい。

アルキメデスの大戦(2) (ヤングマガジンコミックス)

ただし映画のせいではないが、コミックを読んでたときから気になっていたことは解決されていない。野暮かもしれないが、以下に列挙してみる。

  • 数学科は計算は得手ではない(経験上、物理屋や工学部連中のほうがすごい)
  • 戦艦大和の積算見積が会議に提出されない(重要な会議なのにそれでいいのか)
  • 空母か戦艦を選ぶという問題でない(戦略的に初手から負けてるよね)
  • いきなり製図描けない(経験者談:基礎訓練しないと製図は無理。ドラフターもないし)

まあこうした細かいことはどうでもいいぐらいには映画に力があり面白いので気にならない。

ラストで時代が飛んで、結局戦艦大和が建造されてしまう。建造推進派の平山造船忠道中将(田中泯)は主人公を次のように説得する。「美しい巨大戦艦は国民の依り代となる。それが沈んだときはじめて日本は戦争を止める。そのために大和は必要なのだ」と。

なるほど、この論理は腑に落ちたが、歴史を振り返れば、戦艦大和を失ってもすぐに日本は戦争を止められなかった。沖縄戦では無残に惨敗し、本土に2発の原子爆弾を落とされ、不可侵条約を破棄したソ連に攻め込まれて、ようやく降伏に至る。結局、平山中将の思い通りにはならなかったが、負け方を知らなかった日本の悲劇を思い返すと残念だ。ちょうど戦争のことを振り返る時期である。