以前、同じ筆者による『老後とピアノ』を読んで感銘を受けたて、本書にたどり着く。中年女性がおもな読者だと思われるが、なかなか売れているようだ。
この本は「家事が生きる道である」だと捉え、「それをすることで自分自身が生かされる」と唱える。なにやら宗教めいたメッセージにも思えるが、意外に本質を突いているかもと思わせる説得力がある。とくに万人が自分の周りの「家事」をできるようになるべきだという主張は納得できる。まあ、それが幸せにつながるのかというのはどうかなとは思ってしまうが……。
ただし、本書の実践例はかなり極端である。以前読んだ本でわかっていたが、洗濯機や掃除機、電子レンジなどの家電を捨て去って毎日キャンプのようなミニマルな生活をしている。それでも極端であればこそ見えてくる知見が、この本には詰まっている。こうしたところが読者の共感を得ているのだろう。
この本を読んで、ふと思い出したのは勝間和代の家事本である。本書とは対照的に、ルンバ、ドラム式洗濯機、食洗機など便利家電を積極的に導入して家事を省力化するというアプローチ。浮いた時間で稼げばいいじゃないという。
私などは勝間式のほうに分があるように思うが、どちらも極端であることにはちがいない。両者対照的で面白く感じられた。中年女性には稲垣式のほうがウケるのかしらん。
不思議なのは、一流大学と出て、一流新聞社で編集委員にまで上り詰めたにもかかわらず、この生活なのかい、ということ。よんどころない事情があることが、本書なかでも仄めかされているが、私の中では真相はいまだ謎である。
もう一冊読むことになるのか……。