退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】稲垣えみ子 『老後とピアノ』(ポプラ社、2022年)

いわゆる「大人のピアノ」についてのエッセイ。積読しておいた本を読み始めたあたりで、筆者がNHKの「あさイチ」に出演していたのを見つけた。最初は本書の筆者と同一人物とはわからなかったが、元朝日新聞の記者だというので表紙のアフロのイラストで「この人だよ!」と気がついた。

この番組では自宅を紹介していたが、「エアコンなし」「ガス契約なし」というミニマルな生活だった。まあカネはあるだろうから、セルフブランディングのためなのかもしれないが、なかり特殊な住環境だった。

そして「で、ピアノはどこ?」と不審に思っていたが、「ピアノを自宅に持たないピアノライフ」を実践しているという。普段は行きつけのカフェのピアノを借りているという。

で、プロのピアニストが先生として登場するが、雑誌の連載企画の原稿費とバーターらしい。うーん。しかも件のカフェに先生が来てくれるという……。ピアノスタジオとかじゃないんかい!

自分で選んだ曲でレッスンを受けていく様子が書かれている。その曲をBGMにして読み進めていくと、こちらの気分も盛り上がってくる。

いろいろ特殊すぎて一般人には参考にならないが、筆者がピアノに次第に傾倒していく様子は伝わってくる。子どものころピアノを習っていてチェルニーぐらいはやっていたようだが、実際、いまどれだけ弾けるのかなということに興味が湧くが、そこは本質ではないのだろう。

昭和のころピアノを習うことが女子のステータスだった時期があったらしいが、大人になってピアノを再開したい人は多いのだろう。少子化を受けて、いまや子どもより中年がピアノ教室のターゲットらしい。最寄り駅の駅ビルの音楽教室も「大人のピアノ」を訴求している。これも時代だろうか。

また読み終わって思ったのは、タイトルは「老後とピアノ」とあるが、まだ50代だろうし老後を語るにはいささか早すぎるのではないか、ということ。まあ女性にはウケそうなエッセイではある。