イージス艦「みょうこう」航海長として北朝鮮の工作船を追跡したことをきっかけに、自衛隊初の特殊部隊創設に関わった元・海上自衛隊幹部が描く自衛隊のリアル。
- 作者: 伊藤祐靖
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/06/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
著者の自衛官としての半生を中心に綴った伝記物としても読めるノンフィクション。映画化すれば、クライマックスは、能登半島沖で護衛艦が北朝鮮の工作船として対峙した出来事であろう。その場にいた者でなければ書けないリアルな描写は読み応えがある。
しかし、この本で興味深かったのは、大卒にもかかわらず二等海士からキャリアを始め、幹部候補生学校を経て、将校として軍艦乗りとなるまでの、海上自衛隊でのさまざまな経験談である。
筆者は、この本で海自に対して歯に衣着せぬ毒舌を披露している。それが自衛隊全体を捉えているかはわからないが、素人目にも「ひょとして有事の自衛隊はめちゃめちゃ弱いじゃね?」と思ってしまった。大丈夫かなぁ……。
その他では、筆者が日本体育大学で陸上競技で研鑽を積んできた「体育系」である点も見逃せない。常に競技で勝つことだけを考えて学生時代を過ごしてきた人の考え方は、一般学生のそれとはまったくちがう。入隊後も陸上で培った考え方が随所で活かされている点は興味深い。
いわゆる「体育系」という人種が周りにいたことはほとんどないが、あるプロジェクトで日体大でサッカーをやっていたという人と仕事をしたことがある。少し入り組んだ話すると本当に大学出ているのかと思わせる脳筋ぶりで困ったことがあるが、もう少し話をしておけばよかったかもしれない。
「体育系」といえば、筆者が一般大学出身者も受験する幹部候補生学校に入るための試験を受験する場面で、文系と理系で別の試験問題が用意されているが、「体育系」はどうするのかと頭を抱えるところは吹き出した。
試験はまったくできなかったと謙遜していたが、あっさり合格している。謙遜もここまでくると嫌味だなと思いながら、読み進めていると「謙遜ではない」と念押ししていたのも面白かった。内部推薦のようなものがあるのだろうか……。
知らない世界を知るという点において、読み物としてなかなか面白い。