退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】伊藤喜之『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書、2023年)

ガーシーこと、元参議院議員・東谷義和に密着したノンフィクション。

大手メディアが「事なかれ主義」で避けているテーマに挑戦していることは評価できる。軽い読み物としてすぐれているが、決して愉快な話題ではない。不快に感じる人も多いだろう。それでもガーシー本人だけでなく周辺の多くの人物にも取材して、ガーシーの知られざる人物像を描きだすことには成功している。とにかくガーシーの桁外れの「コミュ力」には舌を巻くばかり。

ただし、筆者がガーシーに近すぎるせいか客観的な視点に欠ける懸念はある。またガーシーの行動原理はどのように形成されたのかとなど、ガーシーの内面をあぶり出すことまでには筆が及んでいない点は物足りない。ただ事実を羅列した取材ノートを見せられているだけで深みはない。

またドバイという土地についても面白く読める。さまざまな理由で日本に帰国できない人たちが集まっており、世界にはいろいろな国があることがわかる。

書籍としてそんな感じだが、ガーシーのその後の行動をまったく予見できていないのは、いかがなものだろうか。ご存知のとおり、ガーシーは参議院議員を除名され、結局日本に帰国して当局に逮捕されて起訴されてしまう。ガーシーは、なぜドバイから帰国することを選択したのかという点がもっとも知りたいことだが、この本はその疑問には応えてくれない。