退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】 西岡杏『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム』(日経BPマーケティング、2022年)

社員の平均年収が2200万円という製造業としては驚異的な高い給与水準で知られるキーエンス。FAを中心としてセンサーなどを扱うB2B企業ということもあり、どんな企業なのかその実態はあまり知られていない。

そんなキーエンスについてわかりやすく解説した本。みんなキーエンスが気になるのか大いに売れているらしい。ミーハーな私も手に取ってみた。正直こうしたビジネス本は苦手だが、この本は読みやすく最後までスルスルと読めた。

巻末にあるように、「外報」「ロープレ」「内部監査」「ニーズカード」などなど、キーエンスの仕事のやり方や仕組みが特別というわけでなく、「全員で、本気で、運用を徹底する」ということだろうか。そして高給ということもあり、社員一人ひとりがこれらを高水準で実践できる能力の高い人たちだということも想像できる。

とくに面白かったのは、海外進出の章である。日本で培ったキーエンスの仕組みを海外展開していく成功事例は読み応えがあった。もっと海外でのエピソードを読みたかった。

就活で業界研究をすると製造業を概ね給与水準が低く、最初からそっぽを向く学生も多い。日本の製造業が凋落していくなか、キーエンスのような高収益の企業が台頭していくのは不思議なことだが、このあたりに日本のものつくりの再生のキーがあるのかもしれない。

ただし、この本には成功体験を集めた「プロジェクトX」のような趣きがある。提灯記事とは言わないが、闇の部分がほとんど書かれていない。女性の就業率が低いのが今後の課題だという程度のことが触れられている程度である。何事も光があれば影もある。キーエンスの闇というか、現在抱える課題についても言及がほしかった。