退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】野口悠紀雄『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』(日経プレミアシリーズ、2022年)

どんどん物価が上がるのに賃金が上がらずにどうなっているのか、と思っている人は多いだろう。まさにタイムリーな一冊。ただしマクロ的な視点による分析・提案なので個人レベルの行動を直接示す内容ではない。

この本は7章構成で第6章までが現状分析でいかに日本人の賃金が安いのかを独自の視点からデータ分析がされていて分かりやすい。自分の給料がどの階層にあるのか、賃金格差の生じる理由、円安政策の批判などはそれぞれ興味深い。

第7章でいよいよ「どうすれば日本人の賃金を上げられるのか?」という問い対して、筆者の提言が示される。びっくりするアイデアというわけではなく、どれもありきたりという気もするが奇策などはないのだろう。

まず、「一人あたりの付加価値が上がらなければ、給料も上がらない」という当たり前のことを皆は肝に銘じておくべきだろう。いまでも日本人の6割は働いていないというから驚いた。これでは「一人あたりの付加価値」が上がらないのは当然である。

筆者は、その原因のひとつとして就労者にパートタイマーが多いことを挙げている。これは所得税配偶者控除などの税制のせいで、働きたいのに働くと損をする社会制度のせいである。さらに国民年金の第3号被保険者もこれに加えてもよいだろう。「一人あたりの付加価値」を上げるには、女性にもっと働いてもらわないといけないのは間違いない。

ただし、こうした社会の既存のしくみを変えるドラスティックな改革をするには政治の力が要るが、日本ではそれが期待できない。

本書の円安政策のところで筆者が看破していたように、「消費者と労働者の利益を守る政治勢力が存在しない」ことが日本の足かせになっている。言い換えれば、野党が不甲斐ないために政権交代が起きずに現状維持をしている間に、どんどん日本が凋落していっているのが現在の構図である。

率直に言って、終章で挙げているような提言がいまの日本に実現できるとは思えない。このまま日本は数十年間は凋落を続けて三等国となるような悪い予感しかない。私が大学生ぐらいの年齢なら日本をおさらばして海外に活路を求めるだろう。