退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】ロジャー・パルバース 『10年間勉強しても英語が上達しない日本人のための新英語学習法』(集英社インターナショナル、2015年)

筆者はいわゆる英語学習の専門家ではありませんが、日本で長く暮らしている方で日本人への愛情が感じられます。筆者はロシア語・ポーランド語・日本語を学んだことがあり、そうした外国語学習の経験を基に日本人のための英語学習法を提言しています。

まず、まえがきで「言語は音である」ことが強調されます。日本人が長年英語を勉強しても多くが英語をうまく話せないのは、「書き言葉」にフォーカスを当てた単語や文法を学習ツールにするアプローチが間違っているからだと言い、まず「音」を習得するのが正しい順序だと指摘します。「音」重視がこの本の一貫したスタンスです。

ユニークなのは、最初に「英語の歴史とその結果」を説明していることです。英語学習法の本なのに、なぜ英語史なのかと思う人もいるでしょう。英語が習得するのが難しい言語であることの原因の一端が、複雑な「英語の歴史」にあることがよくわかります。必読です。

また上の「英語と歴史」にも関連しますが、接頭語・接尾語や品詞変化を利用した単語の覚え方(「1-3-5 メソッド」と命名)にも紙面が割かれています。あまり体系的に書かれているわけではありませんが雰囲気は伝わってきます。語源で語彙力を増強する方法は決して新しくはありませんが、とくにラテン語が起源の単語を増やすためにはやはり正攻法なのでしょう。本書では15000語を目標にしています。

また「英語の難所を乗り越える」という章で句動詞の難しさを挙げています。なにか打破する秘訣があるのかと読んでいくと、「英語のマインドセット」を獲得して、状況を掴まないと本当の意味はわからないということ。いやいや、もっと即席でなんとかならんのかい、と思って読んでいたので拍子抜けしました。句動詞の難しさを紹介する例はとても面白いです。

この本を「新英語学習法」と呼ぶのはちょっと違うと思いますが、英語学習者には多くの示唆を与えてくれる本です。本書で紹介されている学習法は英語教育の専門家にとっては既知のことでしょう。まず、これを学校教育で採用できない理由を考えてみるのが先かもしれません。もっともこれは日本人自身が解決するべき問題でしょう。

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