退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】木村盛世『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社、2021年)

新型コロナを扱った本を何冊が読もうと思い、この本を手に取ってみた。専門的知見に裏打ちされた論考を興味深く読んだ。政府発表やマスコミの煽りだけでは得られない情報があった。

たくさんの本のなかから、この本を選んだのは以前、同じ筆者による『厚生労働省崩壊』を読んで印象に残っていたから。この『厚生労働省崩壊』は、新型インフルエンザでの厚生労働省の迷走ぶりを取り上げたものだったが、新型コロナにおいても状況はあまり変わっていないようだ。

この本から数々の発見があったが、いちばんなるほどと思ったのは「厚生労働省が表に出てきて説明しない」という批判である。新型インフルエンザの教訓から、厚生労働省には「医務技監」をいう次官級のポストが設置された。医系技官のトップであり、「保健医療分野の重要施策を一元的に推進するための統括的役割」とされている。

今回の新型コロナの対策に厚生労働省の姿が見えないのはずっと気になっていた。本来ならば、首相のとなりで記者会見に応じるのは、尾身会長ではなく医務技監ではないか、と素人ながらに訝しく思っていた。ちなみに、現在の医務技監は福島靖正氏である。どんな顔だったか思う浮かばないが、この一大事に顔すら覚えられていないというのが、「何をか言わんや」ということだろう。

この他には、諸外国と比較して「さざ波」とも呼ばれた日本の感染状況であるにもかかわらず医療崩壊してしまう、脆弱な医療体制に対しても矛先が向けられていて、厚生労働省日本医師会に責任があることを看破している。今回の体たらくは、新型コロナの教訓を経て改善されるのだろうか。

また「パブリックヘルスについての考え方も示唆的だった。日本では公衆衛生などと訳されているが、それよりもかなり広い概念のようだ。臨床医とは根本的に違った視点を持っている点は面白い。機会があればパブリックヘルスについて深堀りした本も読んでみたい。

ただし、この本が上梓されたのが2021年2月でありワクチン接種が本格的に議論される前であるため、ワクチン接種について紙幅が十分に割かれていない。これは時期的に仕方ないのだが残念である。

f:id:goldensnail:20211009002102j:plain:w400