退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『大阪の女』(1958) / 京マチ子がコメディアンヌとしての魅力を発揮させたレア作品

新文芸の《三回忌追善 大映映画の大輪の華(はな) 京マチ子》という企画上映で映画『大阪の女』(1958年、監督:衣笠貞之助)を鑑賞。八住利雄原作のテレビドラマ「女神誕生」の映画化。お目当ての映画『いとはん物語』の併映だったので期待していなかったが、大阪モノ二本立てを堪能した。初見。

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戦後、大阪の焼け残った一角にあった「芸人村」を舞台に上方芸人たちの生き様を描く。主人公・お千(京マチ子)は、いまは落ちぶれた父親の元漫才師・半丸(中村鴈治郎 )と長屋の二階に間借りして暮らしており、バンドマンだった夫に先立たれても、父を支えてポジティブに生きてていた。半丸のはからいで、お千は芸人の米太郎(船越英二 )と見合い結婚するが、しあわせは長く続かなかった。米太郎は仕事の帰りに、お千の眼前で交通事故に遭い、しばらく入院したあと亡くなってしまう。夫の死により損害保険金30万円がお千に入ってくることになり、芸人村の連中は俄然色めきだつ。そこに米太郎の妻と名乗る女性が子連れで現れて……。


0009 映画 大阪の女 かしまし娘 昭和33年

前半は登場人物の背景や人間関係を描くのに汲々としていてやや退屈だったが、交通事故から保険金のくだりからドラマが緊迫してヤマ場を迎える。

いちばんの見所は、主演の京マチ子もさることながら、周りを固める役者たちが素晴らしいこと。とりわけダメ親父を演じた中村鴈治郎の味のある演技は必見。芸人村をとりまく大阪の芸人たちのパワーが感じられる。これだけ芸達者を集めたものだと感心する。また役者ではないが、こまどり姉妹など当時の芸人の映像を楽しめる点も加点したい。

役者だけでなく芸人村のセットがよくできていることも付言したい。まあ本物の芸人村などは見たことはないが、雰囲気出てるなあと思わせる美術の冴えが感じられた。これも日本映画の黄金期ならではの職人芸であろう。

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