退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『古都』(1963) / 川端康成の小説の映像化作品、二役を演じた岩下志麻の存在感

DVDで映画『古都』(1963年、監督:中村登)を鑑賞。原作は川端康成の同名小説。岩下志麻が二役で主演している。

京都の呉服問屋の一人娘として大切に育てられた千重子(岩下志麻)は、中学生の時、両親から「お前は私たちの本当の親ではない」と知らされる。ある日、清滝川の上流にある村で北山杉を磨いている自分とそっくりの苗子(岩下志麻・二役)に偶然出会う。祗園祭の宵宮で再会した二人は生き別れになっていた双子の姉妹だと知るが……。


「古都」予告編

川端もこの小説で“古き良き京都”を小説で残したいと言っていたと記憶しているが、本作も京都の良さを映像に残すことを目指していたのだろう。半世紀前の人がよいと考える「京都」が那辺にあるかよくわからないが、その目論見はかなり成功しているように感じられる。伝統的日本家屋、四季の折々、京都の伝統行事など雰囲気がよく表現されている。それでいて観光ビデオにならないのは監督の手腕だろう。

さらに武満徹アバンギャルドな劇伴により、伝統的な京都の映像が不思議な印象をあたえている。海外ウケはしそうである。

劇中、パウル・クレーの絵画をモチーフとして帯が登場する。「え!?」というような図案で、どんな着物と合わせるのかと思ったが、結局身につけられることはなかった。小説で雰囲気で書いたものを実写化すると「あれ?」となる好例である。

出演者では、二役を演じた主演の岩下志麻に尽きる。当時はまだ松竹の売出し中の若手だったはずだが、圧倒的な美しさと存在感はすでに貫禄すら感じられる。後に大女優として大成するのも納得である。

私の世代としては「古都」というと、市川崑監督による山口百恵のアイドル映画を思い出してしまう。本作を見ているときもときどき岩下志麻山口百恵に見えてしまったのは内緒だ。こちらもいずれ見直してみたい。

余談だが、DVDの映像特典「シネマ紀行」がちょっとよかった。森口瑤子(これが若い)がレポーター役で、映画のロケ地などを訪ねて関係者に話を聞くという趣向。この映像特典の撮影時期はわからないが、80年代ぐらいだろうか。このときすでに歴史的な建物がビルになったりして、京の街並みが映画とかなり違っているので驚いた。フィルムに残った京都の街は貴重に思えてくる。