少し前に新文芸坐で開催された「岩下志麻特集」で上映されずに気になっていた映画『近松門左衛門 鑓の権三』(1986年、監督:篠田正浩)をDVDで見た。近松門左衛門原作の映像化作品。
元禄時代の松江藩。絶世の美男子・権三(郷ひろみ)は、武道・茶道ともに秀でた逸材だった。藩から大切な茶会を任された権左は、師匠の浅香市之進(津村隆)に茶道の秘伝の伝授を願うが、師匠は江戸詰めで思うようにならない。そこで市之進の女房・おさゐ(岩下志麻)に秘伝の書を見せてほしいと浅香家を訪ねるが、それが悲劇の始まりだった。おさゐに心を寄せる、権三の茶道のライバルでもある伴之丞(火野正平)にふたりの姿を見られて、不義密通だと騒ぎ立てられる……。
美術やロケ地も本物志向で映像はとても美しい。しかし、その映像美が映画の奥行きにつながっているかといえば疑問がある。迫力不足というかどことなく空回りしている印象を受ける。
また岩下と郷の取り合わせもバランスが悪い。近松モノなので仕方ない面もあるだろうが、岩下の情念が先走っていてとても重い。それに対して、郷は見た目はそれなりに見れるのだが、芝居になるとどうしようもなく軽い。ふたりの相性が悪いのだ。
ラストは市之進の女敵討ちでふたりが討たれるシーンだが、チャンバラがあるのは、鬱々とした映画のなかで救いになっている。経済的に困窮して刀を売って竹光を手挟んでいる権三が哀れなのはちょっといい。立ち回りは見応えがある。
タイトルのとおり権三は槍の名手であり、「槍があれば……」と最期に悔しさを滲ませるが、だったら槍を持ち歩けよと言いたくなる。この悲劇は自らの不用心が招いた自業自得の結果ではないかと思え、あまり感情移入できないのが難点だろうか。
まあ、近松モノはこういうものかもしれないが。