退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『マタンゴ』(1963) / 怪獣が登場しない東宝特撮映画の大傑作

DVDで映画『マタンゴ』(1963年、監督:本多猪四郎)を鑑賞。原作はウィリアム・H・ホジスンの海洋綺譚「夜の声」。これを雑誌『S-Fマガジン』(早川書房)の編集長だった福島正実が脚色したサスペンスホラー映画。

7人の若者(久保明水野久美、小泉博、佐原健二、太刀川寛、土屋嘉男、八代美紀)を乗せたヨットが嵐に遭い、不気味な島に漂着する。飢餓に襲われた彼らは島に生息する怪しげなキノコを口にするが‥‥。極限状況における若者たちのエゴを描く。


マタンゴ 予告編

東宝特撮であるが、怪獣が登場するわけでもなく、宇宙に行ったりするわけでもない。福島正実が関与していただけあって、脚本が良質のSFサスペンスホラーに仕上がっている。さすが福島正実。ラストにきちんとオチがついているのもいい。また不気味な難破船の映像表現には特技監督円谷英二の手腕を見ることもできる。

漂着する7人の男女の若者はそれぞれ個性的だが、なかでもヴァンプ女優として名を馳せた水野久美さんの存在感がすごい。DVDのジャケットにもそれが現れているが、彼女の代表作と言える。

1963年に本作のように洗練された映画が撮られていたことに驚く。いま観ても古さを感じないし十分に楽しめる。令和の時代にリメイクしても面白いのではないか。

ただ若者のエゴを描くといわりには性描写は控えめである。子どもも見る映画という配慮だったのだろうが、その点は物足りない。今後リメイクするなら若者たちの性欲が強調されるのだろうか。

なお公開時の同時上映は、本作とは対照的に明るい加山雄三主演『ハワイの若大将』だったというから驚く。この2本を続けて見た観客は何を思っただろう。

なおDVDのオーディオコメンタリーに、ただひとりの生存者を演じた久保明さんがコメントしていて、貴重な話を聞ける。東宝特撮のDVDは、当時の関係者がオーディオコメンタリーに出演して証言を残している点が素晴らしい。

最近はネット配信で気軽に映画を見ることができるが、オーディオコメンタリーなどの特典はパッケージソフトの大きなアドバンテージである。ぜひ本編を見たあとに、オーディオコメンタリーつきでもう一度みてほしい。
マタンゴ Blu-ray