映画『終わった人』(2018年、監督:中田秀夫)を鑑賞。定年を迎えたエリートサラリーマンの悲哀を綴った内館牧子の長編小説の映画化。主演は舘ひろし。
東大卒業後、メガバンクでエリートコースを歩んでいた壮介(舘ひろし)は、社内の権力抗争に敗れ子会社に出向したまま定年を迎える。そんななか妻・千草(黒木瞳)は長年の夢を叶えて自分の美容院を開店しようとしていた。一方、定年後、毎日やることがない壮介は焦りを感じ始める。文学研究に興味を持ち勉強を始めた壮介は、文化スクール勤務の久里(広末涼子)といい仲になる。そしてスポーツジムで知り合ったIT企業の社長(今井翼)に、会社の顧問に就任するように懇願される。これを引き受けた壮介は俄然やる気になって仕事に取り組むが……。
定年を迎えた男性を描いた最近の映画と言えば、山田洋次監督の「家族はつらいよ」シリーズが思い浮かぶ。橋爪功主演の山田監督作品らしくほのぼのとした家族愛を描くことに成功しているが、本作はイマイチである。
原作は未読だが舘ひろしがミスキャスト。長身でスーツが似合ってカッコいいが、およそ東大卒のエリートには見えないのが難点。奥さん役の黒木瞳もツンケンして当たりが強くて怖い。とにかく美男美女の夫婦で現実離れしていて感情移入ができない。
舘ひろしが恋する広末涼子の人物設定もよくわからない。演技もアンドロイドみたいで謎すぎる。いったいどんな出自なのか明らかにされないばかりか、いつのまにか黒木瞳の従兄弟とカップルになっていてこちらが困惑してしまう。どうも大人の映画には思えない。
どうせミスキャストなら、舘ひろしと広末涼子のねちっこいラブシーンぐらいあれば、まだ話題になっただろう。そうしたシーンにどれだけの需要があるかわからないが、かつての広末ファンには大いにアピールできたはずだ。
この映画のねらいはどこにあったのか。定年になった男の悲哀を描く冷徹に描きたかったのか。それとも家族ドラマを撮りたかったのか。ラストはなんとなく夫婦の絆を取り戻してハッピーエンド。なんだかよくわからない変な映画だった。