退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『渋滞』(1991) / 日本人は本当に豊かになったのか問いかけるロードムービー

新文芸坐の《追悼・萩原健一 銀幕の反逆児に、別れの“ララバイ”を》で、映画『渋滞』(1991年、監督:黒土三男)を鑑賞。年末、四国・真鍋島まで帰郷するサラリーマン一家を描いたロードムービー

家電量販店に務める林蔵(萩原健一)は、両親(岡田英次東恵美子)の住む四国・真鍋島に長らく帰っていない。ボケの始まった父親のことが心配だし、子どもたちに一度故郷を見せてやりたいと思い立ち、年末に帰郷することを決意する。経費を節約するため、妻(黒木瞳)と子ども2人を乗せて渋滞覚悟で車で帰ることにするが……。


萩原健一 渋滞

良質のロードムービー。いま振り返ると年末年始の混雑する時期に子ども連れで車で四国まで帰るという発想がどうして出てくるのかわからないが、ある時期の日本の民族大移動のような帰省の風景をうまく捉えている。

途中さまざまなトラブルが起こるが、それぞれ「あるある」と思わさせる。助手席で妻がロードマップを見ながら道案内するのも、ナビが普及した今では懐かしく思える風景だ。

まず主人公一家が、いい夫婦、いい家族だと観客が納得できるところがよい。まあ黒木瞳と結婚しただけでも人生の半分以上は成功していると思わせるが……。プロポーズの場面の回想シーンの黒木が美しい。

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映画『渋滞』(1991年) /萩原健一黒木瞳と子役たち

併せて故郷を離れて何年も経っているのに島の人たちが暖かく出迎えてくれる島の人たちがいることにも感激する。島ならではコミュニティの強さなのだろうか。

故郷の真鍋島の位置は下のとおり。映画では岡山から連絡船を使って帰郷している。

ショーケンアウトローから一転して小市民を演じているが、イライラして怒り出すとちょっと怖い。併映の「極妻」を見たあとだったかもしれないが……。それでも新境地を拓いた一本と言えるだろう。

ラストに父親がブリ(?)を漁船から連絡船に放り投げる場面ある。ここでこんなのもらってもなぁ、と思うがインパクトがある。そのまま俯瞰になって瀬戸内海が遠景で映されるなか、ケニー・Gのサックスが流れるエンディングが心にしみる。地方出身者には刺さる映画だろう。

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何日か通った新文芸坐の「萩原健一追悼企画」も本作が最後でした。日替わりのプログラムなので作品とは一期一会。他にも見たかった作品もありましたが、いつか再会することもあるでしょう。さよならショーケン