退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

検察庁法改正案を巡る炎上で思ったこと

政府の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案について、ネット上で炎上している。私自身はほとんど関心がなかったが、よくわかっていなそうな有名人まで反対を表明するなどして世間がさわがしくなったきた。

「国家公務員が定年延長になるのだから、検察官も延長していいだろう」ぐらいに思っていたが、議論百出しているだけあって、そう話は単純ではない。おそらく問題は、内閣の運用によって検察幹部の定年が延長されたりされなかったりする点であり、内閣が検察人事に強く関与できるようになる点である。

いろいろネットをあさっているなかで、videonewsに今回の検察庁改正案の何が問題なのかよく解説している動画があり参考になった。日頃から安倍批判の論陣を張るメディアだが、それを差し引いても改正案には問題がある。


検察庁法の改正案はどこに問題があるのか

それにしても世間が騒いでいるわりには問題点を解説しているメディアは少ないように思う。本来なら不偏不党であるはずのNHKが特集番組を組むぐらいのことはあってもいいはずだ。

上の動画を見て始めて知ったことも多いので列挙する。

  • 黒川弘務東京高検検事長のための改正とみるむきも多いが、仮に改正案が成立しても施行は2022年4月となっているため、今年8月に定年を迎える黒川氏には影響しない。もっとも黒川氏の再度の定年延長がなければという条件付きだ。
  • 検事総長は任期を2年ほど残して後任を決めて退任するのが慣例である。しかし今回は後任人事を内閣は受け入れず。後任者と目された検察幹部は検事総長になれずに定年を迎える見込みである。
  • 上の慣例を守らず現職の検事総長が定年まで職をまっとうすれば、黒川氏は先に定年となり検事総長に就くことはない。

文章で書くとややこしいのだが、動画のなかの図表を見るとわかりやすい。長い動画でなかなか見る気にならないかもしれないが、問題が複雑なので仕方ない。

正直、このような状況なので改正案が通過しても黒川氏が安倍内閣のパペットとして現政権に有利になるように検察を動かすことはない。それでも将来的に内閣の恣意的な関与により、検察の独立性が脅かされるおそれのある改正案は問題が大きい。場合によっては、内閣総理大臣をはじめとする閣僚までを捜査・逮捕しなければいけない検察トップである検事総長の人事がこれではまずいだろう。

まあ、そうはいっても検察幹部の人事権は内閣にあることはまちがいない。内閣が暴走するのと、検察が暴走するのとどちらが怖いかと問われれば、どちらも怖いが、やはり後者であろう。それは内閣は曲がりなりにも選挙により国民の信託を受けているからである。内閣が信用に足らなければ選挙で落とせばよい。一方の検察は司法試験をパスして検察庁に入っただけの司法エリートにすぎない。暴走を止める手立てがなければ極めて危険である。

やはり内閣が検察に対してグリップを持っていないと民主国家とは言えないだろう。それでも今回の改正案が問題となるのは、政権がデタラメを繰り返しても政権交代が起きない政治環境に原因があるのではないか。いっそのこと安倍政権は強行採決により改正案を成立させて、国民が怒りにより目を覚ますというシナリオも面白いかもしれない。

余談になるが、外国では政府と検察との権力のバランスをどのように撮っているかという点は気になる。映画では検察官が公選されるているのを見ることもあるが、日本ではなかなか受け入れられないだろう。まあジョン・エドガー・フーヴァー のような化け物が現代日本に現れても困るが、もう少し政府に忖度することなく動ける捜査機関がほしいものだ。

検証 検察庁の近現代史 (光文社新書)