退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『男はつらいよ フーテンの寅』(1970) / 森崎東監督によるシリーズ第3作

映画『男はつらいよ フーテンの寅』(1970年、監督:森崎東)を鑑賞。シリーズ第3作。「男はつらいよ」シリーズは山田洋次監督の代表作として知られているが、本作は森崎東が監督している。山田は「もういいや」ということで脚本のみ担当している。マドンナは新珠三千代

シリーズ初期作品で「型」が確立してなかったとはいえ、いまから振り返るとやはり森崎東版「男はつらいよ」は異色作といえる。松竹喜劇の名手として鳴らした森崎東の持ち味なのか、寅さんがドタバタしていて落ち着かない。冒頭から階段落ちしたり、さっそうと歩いていくと土手でコケたり忙しい。


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前田吟渥美清を組み伏せたり、寅さんが吊橋の上で刃物相手に決闘したり、山田監督ではありえない場面が続出する。全編と通して人情より荒々しさが感じられる。

そしてマドンナ・新珠三千代との関わりはかなり雑なのは不満。本作のマドンナは寅さんとは釣り合わない高嶺の花でなかなか感情移入できない。当然、寅さんは振られるのだが、結構手厳しく振られて救いようがない。

それでも寅さんが言葉が不自由なテキ屋の先輩(花沢徳衛)と対峙する芝居は監督らしい社会性が感じられる。「男はつらいよ」である必要もないが映画としては名場面であろう。また寅さんが旅館から逃げ出す場面で火鉢の灰が舞い上がるあたりも映像的にしびれた。

またおいちゃん(森川信)とおばちゃん(三崎千恵子)が湯の山温泉を訪れた際、寅次郎が働いている宿に泊まり、寅と偶然に出会う場面の森川信の演技は最高。おいちゃんの指折りの名シーンだろう。必見。

ラストは「行く年来る年」である。船上で寅さんと客が口上を唱和するあたりはヤケクソ感もあるが、まあ監督らしいエンディングである。それにしてもさくら(倍賞千恵子)の存在感が薄い「男はつらいよ」だった。

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