誰にも昔に聞き込んでいたが、いまは聞くことがなった楽曲があるだろう。そうした楽曲との再会する場はいろいろあるが、戸川純の「ヘリクツBOY」(1985年)との再会はちょっと変わっていた。
少し前の雑誌「中央公論」(2019年11月号)に載っていた、小谷野敦の連載「音楽には物語」というコラムで「ヘリクツBOY」に触れられていたのだ。こんもコラムには「女はバカがいい?」というタイトルが付いていて、恋愛の歌った歌謡曲における女性観を考察している。
このコラムでは、当時の「ニュー・アカデミズム」ブームにかぶれた青年をからかった曲だったのか、と紹介されていた。そういえばそういう曲があったなと懐かしく思った。
もっとも戸川純はいまでも聞くことがあるが、この曲は手元にあるベストアルバムには収録されていなかった。どうしたものかと思って、Spotifyをチェックすると配信されていたことがわかった。便利になったものだ。この「ヘリクツBOY」は、戸川純の3枚目のアルバム「好き好き大好き」に収録されていて、戸川京子・戸川純姉妹が作詞している。
人文系のジャーゴンが散りばめられたそれらしい歌詞が、当時のニューアカ・ブームを思い出させる。戸川姉妹の周囲に理屈っぽい青年がいたのだろうか。ニューアカかぶれといえば、浅田彰『構造と力』がバカ売れしたしたのもこの頃だろうか。ミーハーだった私も工学部の学生だったが手に取ったものだった。振り返るとまったく不思議な現象だった。