新文芸坐で映画『武蔵 -むさし-』(2019年、監督:三上康雄)を鑑賞する。宮本武蔵を史実に基づくオリジナルストリーで「本物の武蔵」を描く本格時代劇映画。
武蔵(細田善彦)は吉岡清十郎、伝七郎との対決に始まり、一乗寺下り松、そして佐々木小次郎(松平健)との巌流島の決闘へと進む。途中に宍戸の鎖鎌、本蔵院の十字槍との対決も盛り込まれている。
映画『武蔵-むさし-』予告篇【公式】5月25日より公開中! (MUSASHI)
宮本武蔵は何度も映像化・舞台化されているが、その多くは吉川英治の小説を基にしている。しかし本作は吉川英治の世界観を脱し、お通や又八、沢庵も登場しない。そのため武蔵の周りには登場人物がおらず、ほとんど芝居をしない。殺陣の場面のほかは吠えたり、喚いたりいているだけのだ。武蔵のイメージづくりは観客にまかされている。
最初、武蔵が登場したときはずいぶん華奢だなと思ったが、一乗寺下り松の戦いの吉岡一門との戦いの大立ち回りは見事。その後、薪割りをするシーンで上半身裸を披露していたが、鍛えられた肉体美にも感心した。
一方、宿敵の松平健が演じる佐々木小次郎はミステリアス。最初に修験者姿で登場したのには驚いた。これが史実どおりなのか知らないが、どのような出自だったのか興味が湧いた。また劇中でも小次郎は50歳ぐらいだと言っていたが、武蔵との年齢差にも驚いた。
藩の治安維持のために召し抱えられた小次郎が、次第に藩の重臣たちに疎んじられていき、邪魔者を始末するために武蔵との決闘を強いられるのは、ジェームス三木脚本のNHK正月時代劇「巌流島 小次郎と武蔵」(1992年)と同じ。これは史実なのだろうか。
とにかく松平健の存在感は圧倒的。弟子を相手に型の稽古を付けている何気ないシーンでも迫力満点。本作は武蔵が主役の映画だが、佐々木小次郎で一本撮ればいいのにと思わせる。
全編ロケの映像は時代劇映画を見たなという気分にさせてくれるし、三味線だけのBGMもシンプルでいい。ぜひ映画館で見てほしい映画である。
余談だが、監督の前作『蠢動-しゅんどう-』を見たとき個人的には気に入ったが、興行的には難しいだろうと思った。これは次回作は望めないな、と心配したが予想は外れて本作を見ることができた。世の中捨てたものではないのかもしれない。