退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『越後つついし親不知』(1964) / 佐久間良子がなかなかいい

神保町シアターの《生誕90年記念 昭和の怪優 小沢昭一のすゝめ》という企画で、映画『越後つついし親不知』(1964年、監督:今井正)を鑑賞。原作は水上勉の短編小説、主演は佐久間良子東映が制作した文芸作品。白黒映画。

日中戦争が勃発した昭和12年権助三國連太郎)と留吉(小沢昭一)は、越後の寒村から京都伏見の造り酒屋に出稼ぎに来ていた。12月のある日、母親危篤の知らせを受けた権助は帰郷するが、駅から実家に向かう道で留吉の若妻おしん佐久間良子)に出会う。突如劣情をもよおした権助は、その場でおしんを強姦する。やがて春が来て留吉が戻ってくるが、おしんは権蔵の子を孕んでいることに気づき……。


予告編 越後つついし親不知 1964 今井正

まず越後の不知火とはどこだろうと思ったが、現在の新潟県糸魚川市に西部に位置する。断崖絶壁で知られているようだ。

憎たらしい三國連太郎と実直な働き者の小沢昭一の対比が効いている。大柄な三国と小柄な小沢の絵面のコントラスも面白い。そこに美しい佐久間良子が絡んで三角関係を構成する。よくある人物相関であるが、親不知の厳しい自然や古い因習と併せると深みが増すように思える。古き日本映画の魅力が感じられる作品でもある。

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おしん権助の子を宿していると気づいた留吉が逆上して、おしんと田んぼで泥だらけでもみ合うシーンは迫力満点。佐久間の女優魂を感じさせる名場面。さらに激昂した留吉がおしいんを殺めてしまうシーンからの急展開は映画としての勢いがある。また喜喜劇役者以外の顔で実直な演技をみせた小沢昭一の名演も光る。

上映中はそれほど長いとは思わなかったが、意外に長尺(124分)である。おしんの生い立ちが回想シーンとして挿入されているのはやや冗長か。もう少し短くまとめてよかったのではないか。そうすればヌーベルバーグの影響を感じさせる衝撃のラストもより効果的だったろう。

同じ水上勉原作の映画といえば、前年の大映の『越前竹人形』(1963年、監督:吉村公三郎)と重なるところが多い。若尾文子佐久間良子をどうしてもくらべてしまう。佐久間も悪くないが、やはり若尾のほうが色気があると思った次第。文芸作品はやっぱり大映映画に分がありそうだ。ちなみに東映は、その後エロチック路線の舵を取っていくが、それはまた別のはなし。

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