麻生財務相が9日の記者会見で、紙幣を全面的に刷新すると発表した。1万円札の肖像画には日本の資本主義の父とされる実業家の渋沢栄一、5千円札には津田塾大の創始者で女性教育の先駆けとなった津田梅子、千円札には近代医学の基礎を築いた北里柴三郎を用いる。新しいデザインの紙幣は2024年度に発行予定。
教育者や科学者である津田梅子と北里柴三郎は無難で異論は出ないだろうが、渋沢栄一は物議を醸しそうだ。渋沢栄一は超大物で経歴や実績は文句の付けようもない。「日本資本主義の父」と称されるのも納得であり、紙幣の肖像に選ばるのもさもありなんというところだろう。
それでも近代日本の経済界の大物として活動していた以上、大日本帝国の帝国主義的なイメージを払拭することはできない。日本が侵略したアジアに国々はどう感じるだろうか。さっそく韓国メディアが批判する記事が報じられている。
さらに渋沢栄一がとったハンセン病に対する対応についても批判があることが知られている。当時の医学水準や人権意識を考えればやむを得ないことだったのかもしれないが、およそ実業家や資本家というものは、光と影があるということだろう。
そうした影があるので実業家や資本家に分類される人物は、広く使われる紙幣の肖像にはふさわしくないと思う。まあ、このような批判は十分に考慮したうえでの選定なのだろうが、どうも同じ実業家の家系にある麻生太郎財務相の意向が強く出ているような気がして釈然としない。
もっとも政府の目論見通りにキャッシュレス決済が普及していけば、せっかくデザインを一新した紙幣に触れる機会も減るのかもしれない。
ところで紙幣デザイン刷新で期待できる経済効果はどの程度の規模なのだろうか。ATMやレジ、自動販売機などなど、膨大な機材の更新が求めらる。これは日本のGDPに寄与するだろうが、それ自体何も価値を生むわけでない。いっそのこと、これを契機に市井における現金使用禁止ぐらい打ち出してもいいのかもしれない。