新文芸坐の《唯一無二の個性と存在感 追悼・樹木希林》で映画『東京マリーゴールド』(2001年、監督・脚本:市川準)を鑑賞。林真理子の短編小説「一年ののち」を市川準が脚色して映画化。主演は田中麗奈。
OLのエリコ(田中麗奈)は、合コンでタムラ(小澤征悦)と知り合う。数日後、エリコはタムラをデートに誘うが、タムラには海外留学している恋人がいると知らされる。それでも恋人が帰国するまで1年間限定で付き合うことになるが……。
どうという話ではないが、静かで芯の強い映画で好感が持てる。無理やり2時間まで尺稼ぎしないで短めなのもいい。総じて雰囲気の映画だが、東京の街が美しく撮れていることは特筆できる。
一年が過ぎて別れる段になると、やはりすんなりとは別れられずに一悶着ある。タムラにあっさり捨てられるエリコが哀れだ。そしてタムラの恋人が帰国するが……。あえてオチは書かないが、女性目線では「ザマアミロ」というところだろうか。
主演の田中麗奈の表情がいい。いかにも街にいそうな女性をさりげなく演じているのはたいしたもの。彼女は当時20歳ぐらいだと思われるが、すでに大物女優の風格すら感じさせる。市川準監督はヒロインを撮るのが上手い。
相手役のタムラはちょっと変だ。小澤征悦の演技が棒なのは、演出なのか本当に演技力がないのは分からないが、結果としてタムラの人物描写に不思議な効果が生じている。まあ恋人が不在の間にわざわざ部屋を借りて浮気するのもオカシイし、エリコが茹でたパスタを「うどんじゃないだから」と全部捨てる男はどうなんだろう。とにかく変な男だ。
ちなみに肝心の樹木希林はエリコの母親役。母娘のやりとりは穏やかで柔らかい雰囲気があるが、やはりこれは田中麗奈の映画だろう。
劇中の「野球しましょう」のCMが面白い。CMディレクターだった市川準監督の真骨頂だ。エンドロールでキャッチボールする田中麗奈も魅力的。