新文芸坐の《唯一無二の個性と存在感 追悼・樹木希林》で映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2007年、監督: 松岡錠司)を鑑賞。リリー・フランキーの自伝的小説の映画化。主演はオダギリジョー。
ボク(オダギリジョー)が東京タワー近くの病室でオカン(樹木希林)を看取るストーリーラインと、ボクの少年時代から上京して成功するまでの生い立ちを描くストーリーラインが交差しながら映画が淡々と進行する。いくらでもお涙頂戴にできる話だが、抑えが効いた演出で良いい意味で予想を裏切られた。
この作品は映画自体の内容もさることながら、観客が自分の母を思いを寄せ、自らの人生を「ボク」に重ねざずにはいられないところが肝だろう。とくに地方から大学進学で上京してきた中年男性には刺さる映画である。
ボクが東京の芸大に進学するも自堕落な生活を送りあっさり留年。田舎で懸命に働きながら仕送りを続けるオカンに電話で留年を伝える場面は、ギリギリで4年間で卒業した我が身にはつまされた。
このまま低空飛行の人生を続ける人も多いのだろうが、ボクは一念発起して30歳ぐらいでオカンを東京に呼び寄せているのもすごい。成功して本当によかった。オカンの死後、オカンからの手紙を読むボクの姿にも泣かされた。
樹木希林は母親役を何度も演じただろうが、この映画のオカン役は絶品である。ユーモラスな場面だけでなく、がん治療の副作用に苦しむ"荒業"にも挑んでいて凄まじい俳優魂を見せている。まさに彼女の追悼企画にふさわしい作品である。
ちなみに若いころのオカンを実娘の内田也哉子が演じたことも話題になった。さすが母娘でよく似ているが、オトンはずっと小林薫が演じている。この歳になるとボクもそうだがオトンに感情移入したくなる。病床にあるオカンとふたりで病室に取り残された老いたオトン(小林薫)がいい味を出している。
母の無償の愛を描く映画はたくさんがあるが、最近の作品では好きな映画のひとつである。