日産自動車のカルロス・ゴーン会長が11月19日、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
ゴーン氏が乗ったプライベートジェットが羽田に着律した直後に検察が機内に乗り込みゴーン氏に接触するという劇的な映像に驚かされた。実にドラマチックである。朝日新聞がちゃっかりスクープしているのも日本らしい。
関係者は気が気でないだろうが、この「急転直下の失脚」は野次馬としてはとてもワクワクしたので、以下、気がついたことをメモに残しておく。
司法取引
報道によれば、この事件について司法取引制度の適用が進められているという。これまでの経済犯罪事件と大きく異なる。日産自動車社員が検察の捜査に協力する代わりに刑事処分を軽くするという日本版司法取引である。この制度は今年6月から導入されたもので、個人への適用は初めてらしい。
ゴーン会長逮捕の直後に日産自動車の西川社長が記者会見で公然とゴーン氏を批判していたのにも奇妙に思えた。どうしてこれほど他人事なのだろう。逮捕容疑の「有価証券報告書の虚偽記載」については、そもそも有価証券報告書は会社が作成・提出する書類なのに、なぜ経理担当の役員あたりに司直の手が及ばないのか。これが司法取引の威力なのだろうか。
【ノーカット】日産ゴーン会長逮捕受け 西川社長が会見(18/11/20)
司法取引については、映画などで海外にはこんな制度があるのかとすごいなあt思って見ていたが、ついに日本でも導入され運用されるようになった。この制度がなければ、これほどスムーズに会長の逮捕には至らなかっただろう。凄まじい破壊力である。
多層的な利害関係
逮捕後、スポーツ各紙には「クーデター」の文字が踊ったが、単なる社内の権力闘争というほど単純ではない
利害関係は複雑だが、社内、企業間、政府間の3つのレイヤーに注目するといいだろう。とにかくワクワクするほどの広がりをみせている。
ルノーと日産自動車は相互に株を持ち合っているが、持ち株率は非対称であり、ルノーは日産に対して議決権を持つなど圧倒的優位に立っている。これは日産が経営危機に陥ったときにルノーの支援を受けた経緯によるものだが、現在の業績は日産がルノーを上回るというねじれ状態になっていてますますややこしい。
またフランス政府がルノーの大株主であることにも注目したい。フランス政府は日産を恒久的に経営支配して利益を搾取するため、経営統合を画策していて、ゴーン会長がその意を受けて動いていたと伝えられる。これを阻止するために、日本政府がゴーン会長を逮捕したという見方もあるが、これはさすがに飛躍しすぎであろう。ただ自動車産業の一大勢力である企業グループの経営権をどの国が握るかという政府間の争いがあっても不思議ではない。
カルロス・ゴーンの人物像
個人的にいちばん関心があるのは、カルロス・ゴーンの人物像である。
両親はレバノン人で、ブラジルで誕生。幼少期をブラジルで過ごし、中等教育はレバノンのベイルートで受けた。フランスの工学系グランゼコールであるパリ国立高等鉱業学校で高等教育を受けて、ミシュランでキャリアを始めている。
決してフランス人のエスタブリッシュメントではなかった、彼のアイデンティティはどのあたりににあるのか。また宗教観や価値観などはどうなのか興味は尽きない。
今回の件で言えば、引き際さえよければ日本では「日産自動車を再建した偉人」として後世に伝えられただろう。なんとも惜しいことだ。
映画化決定!?
最近、実録モノの映画ばかり見ているせいもあるが、カルロス・ゴーンの伝記映画を見てみたいと思う。ドラマチックな人生で映画にしても絵になるだろう。まあ今回の事件の黒白がつき、一応の決着を見るまではその願いも叶わないだろうが、いずれ映画化されることは間違いない。野次馬の映画ファンとしては、その日を楽しみにしたい。