新文芸坐の《映画を通して歴史や社会を考える(3) 権力を手にした男たち》という企画で映画『ちいさな独裁者』(2018年、脚本・監督:ロベルト・シュヴェンケ)を鑑賞。併映の『バイス』が目当てだったが、この映画も予告編を見て気になっていた作品だった。ドイツ映画。
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2019/09/04
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第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツの敗戦は決定的になっていた。部隊を脱走したドイツ軍上等兵へロルト(マックス・フーバッヒャー)は憲兵隊から追われていた。かろうじて追手から逃れたへロルトは、放棄された軍用車両で偶然空軍大尉の軍服一式を見つける。いたずら心でその軍服を身に着けるが、そのまま大尉になりすますことを思いつくが……。
当初いつ正体がバレるかビクビクしていた主人公が、制服を着ているだけで周囲からチヤホヤされて、権力に酔いしれるかのように、次第に大胆かつ傲慢になっている様子が恐ろしい。ヘロルトは途中で出会った敗残兵を次々に服従させて支配下に収めていき、やがて自分も脱走兵であるにもかかわらず、脱走兵収容所で大量虐殺を行うまでエスカレートしていく。さらに部隊を率いて街に繰り出し、勝手に即決裁判で死刑を執行する。まさにやりたい放題。
ドイツという国は、手続き重視が徹底して司法に対しても厳格だろうと思っていたが、ヒトラーの名前を出すと意外にちょろい。実直に司法手続にこだわる軍官僚もいるのだが、結局主人公の暴走を止められない。これが独裁国家の限界なのかもしれない。
ただし、映画のなかで、主人公ヘロルトがなぜ暴走したのかという疑問には言及されない。彼の生い立ちや脱走兵になった経緯についても触れられていないのはやや不満。
エンドクレジットで知ったことだが、驚くべきことにこの主人公にはヴィリー・ヘロルトという実在人物がモデルとのこと。つまり実話に基づいている。結局、主人公はドイツ敗戦後、英軍に逮捕され戦争犯罪人に処刑されているとのこと。
この映画の原題は、Der Hauptmannといい「大尉」という意味だが、邦題は「ちいさな独裁者」という、ひねったタイトルになっている。「ミニヒトラー」はどこにでもいるということだろうか。しかし、こんなヤツはめったにいない。
エンドクレジットで、へロルトが部下をともに現代ドイツの都市にあらわれて、市民たちに傍若無人の振る舞いをする映像が流れる。『帰ってきたヒトラー』を思い出す映像だがユーモアがあってちょっと面白い。