新文芸坐の《映画を通して歴史や社会を考える(3) 権力を手にした男たち》という企画で映画『バイス』(2018年、脚本・監督:アダム・マッケイ)を鑑賞。ジョージ・W・ブッシュの下で副大統領を務め、史上最強の権力を手にした副大統領と言われたディック・チェイニー(Dick Cheney, 2001-2009)の伝記映画。
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チェイニーについてほとんど知らなかったが、いわゆるガチガチのエリートではない。ワイオミングの片田舎に育ちで、酒癖が悪く飲酒運転で牢獄に放り込まれたり、名門イェール大学に入学するが学業不振で中退するなど冴えない青年時代だった。ここでチェイニー(クリスチャン・ベール)を叱咤激励して後押しするのが、のちに結婚する恋人のリン(エイミー・アダムス)である。まるで「マクベス」のようだが実話である。
チェイニーが野望を胸に出世の階段を駆け上がっていく様子が、当時の政治状況にからめて見事に描かれている。いったん政治から身を引いたあとチェイニーは、ジョージ・W・ブッシュに懇願されて副大統領に就任する。その後は「影の大統領」をして権力を振るい、2001年9月11日の同時多発テロ事件を受けて、イラク戦争へと国を導いていくのは周知のとおり。映画のなかでも言及されていたが、チェイニーのせいで人生を狂わされた人は相当数に登るだろう。
Vice Trailer #1 (2018) | Movieclips Trailers
世界をめちゃくちゃにした副大統領の真面目な伝記映画ではあるが、コメディ仕立てで観客を飽きさせない。途中でエンドロールが流れたり、シェークスピアの芝居になったり、ナレーターが交通事故で死亡して、チェイニーの心臓移植のドナーになったり、サービス満点。さまざまな映画的ギミックが詰まっていて楽しめる。
日本映画も本作のような実在の政治家の伝記映画をコメディとして撮れるぐらいに成熟してほしいものだ。