退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』 (星海社新書、2018年)

学生時代に「文系」と「理系」という区分けで悩んだ人も多いのではないか。多くの人は高2あたりで文理選択の岐路に立たされる。さらに、その選択はその後の就職や職業を大きく左右する。にもかかわらず、文系と理系という区分けについて議論されることはなく、ぼんやりとしたイメージで語られることが多い。

この本では、まず文系と理系というカテゴリーの成立の過程を歴史的に振り返る。西欧における近代諸学問の成立や、日本の近代化にまで遡り、タイトルのとおり「文系と理系はなぜ分かれたのか」というテーマに迫る。この議論にかなりその紙面を割いている。読み物としては面白いが、自分の進路選択のために本書を手に取った平均的な高校生は、現実問題を扱う章を前に挫折してしまうかもしれない。

進路に悩む高校生にとって関心があるのは、上の歴史的背景を確認した後の現実の問題を扱った第3章「産業界と文系・理系」と第4章「ジェンダーと文系・理系」だろう。東京医科大学の不正入試事件を受けてタイムリーな話題になったせいもあるが、男女の差異に注目したジェンダー論はとくに面白い。高校生は文理選択する前に読んでおくとよいだろう。

気になったことを2つだけ挙げる。

ひとつめは、「文系と理系に分けてるのは日本だけだ」だとよく言われるが、実はそうでもないということ。最近は日本でもSTEMという語が普及してきたが、欧米でも儲かるSTEMと儲からない人文系という図式になっているとのこと。文系・理系について他国事情にもっと知りたいと思った。

ふたつめは、男性の言語リテラシーの話だ。女性のほうが、男性より言語リテラシーに優れているという調査結果があるというが初耳だった。これを「コミュ力」という言葉に置き換えていいのかわからないが、地域コミュニティを見ても女性中心で切り盛りされていることが多く、この調査結果は体験的に納得できる。これが男女の差異だとすれば、自ずと職業の適性も男女にちがいが生じるのも必然だろう。もう少し調べてみる必要がありそうだ。

個人的に話をすると、高校で理系を選択して、そのまま工学部に進学したが、どんどんクラス(学科)に女子が少なくなっていった。それ以来、文系・理系のジェンダー論については興味があった。この本は私の疑問のすべてに答えてくれたわけではないが、様々な視点を得られて読んだ価値はあった。

読後に思ったのは、文系・理系問題は意外に根深い問題であることだ。一筋縄ではいかない大きな問題だ。世間の不毛な論争はまだまだ続きそうだ。

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