退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『おれの行く道』(1975) / 西城秀樹と田中絹代の貴重な共演作品

新文芸坐の《追悼・西城秀樹 ヒデキ、フォーエバー!》で、映画『おれの行く道』(1975年、監督:山根成之)を鑑賞。ヒデキが20歳の頃の作品である。いかにもヒデキの主演のアイドル映画のようなタイトルだが、当時多忙だったのか出番は意外に少ない。田中絹代の映画といってもいいだろう。

信州の大学生・耕三(西城秀樹)は、母の法事のため成田に帰ってくるが、途中ケンカをして一晩警察の世話になり法事に遅れてしまう。その席には、北海道から出てきた祖母キク(田中絹代)もいた。亡夫から相続した多額の遺産を目当てに、兄姉たちは競うようにキクを手厚く扱い、キクは3人の孫たちの家に順番に世話になることになる。しかし遺産は既に老人ホームに寄付され、キクの手元には金がほとんどないことがわかると、兄姉たちは手のひら返すようにキクを邪魔者扱いする。キクは北海道にいったん戻るが居場所がなく、結局成田に戻ってくる。しかし家人たちとソリが合わず、キクは養老院に行くため家を出ることになる。そんなときに耕三が戻ってくる。話を聞いた耕三は兄姉たちに激怒して大げんかとなり、みんなを殴り倒してしまう。耕三はキクの面倒はオレが見ると啖呵を切ると、二人で家を飛び出す。道すがらキクはまだ遺産が二億円が残っていることを耕三に伝えるのだった。

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すぐに気がつくが、この映画は小津安二郎の『東京物語』のオマージュだろう。他にも小津作品から引用が見受けられる。パクリとは言いたくないが、アイドル映画だから誰も分からないと思ったのかもしれない。松竹としてはこれでよかったのか……。

映像的には謎のエフェクトが目立つのが特徴である。アクセントになっているとも言えるが、私にはやりすぎのように思える。とても疲れる。ラストのヒデキと兄姉たちの乱闘場面もストップモーションの連続で迫力がない。「寺内貫太郎一家」ばりのアクションを見せてほしかった。

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既に述べたようにこの映画にヒデキの出番は少ないが、名優・田中絹代とのコンビはなかなかいい。田中の事実上最後の主演作ではないだろうか。他の出演者も芸達者が揃っていてなんとか映画が成立している。そのなかで片桐夕子がなんの必然性もなく風呂場で脱いでいるのには驚いた。にっかつロマンポルノ出身とはいえ扱いがひどい。そもそもアイドル映画でヌードは必要なのかと、小一時間問い詰めたい

ラストシーンはちょっといい。広い車道をスクリーン奥に向かって歩いていくヒデキと田中を俯瞰で撮っている。成田空港のために整備された道路なのか、車が一台もいない。ちょっと面白い映像である。まさに「おれの行く道」というワケで、最後に見事にタイトル回収しているのはシャレている。

期待していない分、アイドル映画のわりには面白かった。そんな映画である。

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