退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『山椒大夫』(1954) / 巨匠・溝口健二監督の代表作のひとつ

DVDで映画『山椒大夫』(1954年、監督:溝口健二)を鑑賞。先日読んだ『仕事と人生に効く教養としての映画』(伊藤弘了著)という本で言及されていたので、ふと見直してみたくなった。原作は森鴎外の小説。いわゆる安寿・厨子王伝説が元ネタで、よく知られているストーリーである。

平安時代末期。農民を救うため上役に逆らった平正氏が左遷される。妻の玉木(田中絹代)、娘・安寿と息子・厨子王は越後を旅している途中、人買いにだまされ離ればなれになってしまう。玉木は佐渡に、安寿と厨子王は丹後の山椒大夫進藤英太郎)に奴隷として売られる。姉弟はそれから10年もの間、奴隷としての生活を続けるが、ついに意を決して逃げ出すことにする。しかし追っ手に迫られ、安寿(香川京子)は厨子王(花柳喜章)を逃すため池に身を投げる。そして……。


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原作は姉弟だが、映画では兄妹に改変されている。さらに厨子王が復権して「倍返し」するあたりも抑えた表現になっていたり、厨子王が領主を投げ出すあたりも原作とはちがう。溝口の美学に合わなかったのだろう。

本作は巨匠・溝口健二監督の代表作のひとつ知られているマスターピース。映像、演技力、構図。どれをとっても超一流。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞しているのも納得できる日本映画の至宝。全編を通して中世日本の残酷さが表現されているが、これがグローバルに通用するというのが面白い。親子の情というものは万国共通なのだろう。

とくに宮川一夫による撮影が秀逸。とくにラストの海をとらえたロングショットはあまりにも有名で、ゴダールにも影響を与えている。溝口作品ということもあるが、ぜいたくにロケをした当時の日本映画の栄光が垣間見える。

DVDには、溝口の常連スタッフ3人、脚本家・依田義賢美術監督・内藤昭、名カメラマン・宮川一夫のコメントが収録されていたのは収穫だった。これは貴重。オーディオコメンタリーのためだけにもDVDを見る価値はある。ただし本編に日本語字幕がないのは残念。

シーンが変わるたびに聞き手が「これはどこですか」と聞いて、当時のスタッフたちが撮影の思い出を語ったり、この場面は説明ゼリフばかりで脚本がツライという話も聞けて実に興味深かった。

映画をネットで見ることも多くなったが、こうしたオーディオコメンタリーを活かす方法はないのかと思った。