目黒シネマで映画『ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け』(1986年、監督:山川直人)を鑑賞。山川監督のデビュー作。パルコが配給を行ったPARCOムービーの第一弾でもある。
まず指摘しておきたいのは、この映画がタランティーノの『ヘイトフル・エイト』との2本立てだったこと。『ヘイトフル・エイト』との併映作に、この作品を選んだ目黒シネマのセンスを賞賛したい。映画館には「密室&西部劇」と書いてあったが共通点はそこなのか! ロビーの作品紹介のボードも力作で感服した。
本作は「ワンセットだけで1本の映画を成立させたい」という山川監督のアイディアにより制作された。モニュメント・バレーのにある"スローターハウス" という酒場での4日間を描いていた西部劇(?)。馬を失ったビリィ・ザ・キッド(三上博史)がとぼとぼと歩いて酒場に訪れる。店で働いている用心棒たちとともにギャングたちから酒場を守るというストーリー。
高橋源一郎が原案・脚本に参加し彼の小説からの引用が目立つ。また他の様々な作品のパロディーが配されている。オーディオコメンタリーの解説付きで見たい。ワンセットで撮られているため会話劇を中心に進行する演劇的な作品である。
多士済々な出演者たちの言葉遊びが多用されたセリフを楽しむとともに、ポップでコミカルな大胆な演出を楽しめる人だけの映画。ノリについていけない人はツライかもしれない。
出演者は主演の三上博史、真行寺君枝を含めてみなさん若い。というか、すでに鬼籍に入った出演者も多いことからも時の流れを感じる。出演者のなかでは、室井滋(中島みゆき役!)がローラースケートで登場するシーンが印象に残る。他の出演者とちがい、いまとあまり変わっていないのがまたすごい。
音楽面ではガールズバンドの草分けであるZELDAが参加していることも特筆できる。主題歌を歌っているだけでなく、劇中で唐突にZELDAのライブが始まってしまうという演出にしびれます。
映画館での上映機会はレアだろうが、DVDが発売されているのでぜひ一度見てほしい。いまはなきセゾン文化の残滓を感じることができるかもしれない。メディアを取り巻く状況が大きく変わったこともあり、今後こうした映画がつくられることは二度とないだろう。80年代のある時期に日本のポップカルチャーのピークがあったのではないか。そんなことを感じさせる作品である。