退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『軍旗はためく下に』(1972) / 軍隊の真実を描く強烈な反戦映画

新文芸坐の《日本国憲法施行70周年記念 映画を通して反戦と平和を希求する映画祭》で映画『軍旗はためく下(もと)に』(1972年、監督:深作欣二)を鑑賞。原作は結城雅治の直木賞受賞作、脚本は新藤兼人

軍旗はためく下に [VHS]

昭和27年戦没者遺族援護法が施行されたが、「敵前逃亡につき処刑」とされた富樫軍曹(丹波哲郎)は英霊の列に加われず、遺族の妻サキエ(左幸子)に恩給は支給されることはなかった。軍法裁判の判決文すら残っておらず、この処分に納得できないサキエは毎年終戦記念日になると、20年以上厚生省に不服申立てをしていた。これを見かねた新課長(山本耕一)は、厚生省からの照会に応じない4名の名簿を渡し、遺族が直接依賴するようにうながす。サキエは夫の死の真相を突き止めるべく、4名の生き残り(三谷昇・関武志・市川祥之助・内藤武敏)を訪ねることを決意する。そしてようやく真相が明らかになる。

執念で真相を追求する左の熱演が印象的。4人を訪ねる場面はドキュメンタリータッチで撮られていて味わいがある。その過程で軍隊の本質、戦争の残酷さが次第に浮き上がってくる演出は見事で、最後は天皇批判まで滲ませている新藤兼人の脚本が冴えている。

判決文すら保管されていないなど公文書管理が杜撰なのは昔も今も変わらないようだ、書類がないなら遺族が有利になるように判断してやればいいと思いながら見ていたが、結局真相は、富樫軍曹はやむを得ない事情により「上官殺害」のため憲兵隊により処刑されていたことがわかる。これじゃ恩給が出ないのは仕方ないと思うが、その処分が結果まちがっていなかったことがいっそう虚しい気分にさせる。

作監督は数々の娯楽映画を遺しているが、この映画は自ら原作権を買い映画化したという。映画人として本当に撮りたかったテーマなのだろう。せっかくの意欲作なのに日本ではDVDが発売されていないのは残念。戦争に思いを馳せる夏に一度は見てほしい映画である。