シネマヴェーラ渋谷の《フィクションとドキュメンタリーのボーダーを超えて》という企画で、映画『裸の島』(1960年、監督:新藤兼人)を鑑賞する。瀬戸内海の孤島で力強く生きる貧しいひとつの家族を台詞無しで描く独立プロならではの実験的映画。
- 出版社/メーカー: 角川映画
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夫婦(乙羽信子、殿山泰司)と男の子2人が瀬戸内海の小島でほぼ自給自足で暮らしている。島の斜面に細々と農作物を植えていたが、灌漑用水や飲料水を隣島まで手漕ぎの小舟で出かけて汲んでくるのが夫婦の日課だった。
ある日、子どもが鯛を釣り上げていくらかの現金を手に入れて、尾道の市街に出かけて買物や外食を楽しむシーンが印象的。ラストで長男が急病で亡くなり、級友たちが葬儀に島にやってきて弔いし埋葬される。母親は一時半狂乱になるが、やがて落ち着きを取り戻し、いつもの小舟で水を汲みに行く日常が再開される。
台詞なしで映画は淡々と進むが、この一家がなぜこうした非効率な生活を営んでいるのは明かされない。極めてシンプルな映画だが緩みはない。当時、ソ連の作家・ソルジェニーツィンが絶賛したという。そう言われれば、ロシアや東欧の映画と通底する部分があるかもしれない。
以前の日本にはこうした映画をつくる活力があったのかと思うと感慨深い。新藤作品の定番作品ではあるが一度はスクリーンで見ておくべき映画だろう。