退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ハクソー・リッジ』(2016) / 沖縄戦での衛生兵の活躍を描いた戦争映画

近くのシネコンで映画『ハクソー・リッジ』(2016年、監督:メル・ギブソン)を鑑賞。太平洋戦争の沖縄戦で衛生兵として従軍したデズモンド・T・ドスの実体験を描いた戦争映画。

ハクソー・リッジ」とは、沖縄戦において沖縄県浦添市にあった「前田高地」と呼ばれた日本軍陣地のこと。北側が急峻な崖になっていることから、米軍はHacksaw(弓鋸)と呼んだ。ここは激戦地として知られるが、映画の「戦闘シーン」が圧巻。かなりヤバい。

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この映画は大きく2つに別れる。前半は主人公のドス(アンドリュー・ガーフィールド)が、恋人のドロシー(テリーサ・パーマー)と別れ出征して訓練キャンプに新兵の訓練を受ける姿が描かれる。ドスは宗教上の理由から「良心的兵役拒否者(Conscientious objector)」として認められていたが、銃を持つことはできないと拒んだため上官からいびられ、仲間からはリンチを受ける。結局、軍事裁判で衛生兵として従軍することを認められるが、いびり出さずに法的手続きで白黒つけるのはアメリカらしい。旧日本軍ならどうなったことか……。

後半はお待ちかねの沖縄戦の戦闘シーン。ドスは丸腰で激戦地を駆け回り、75人の命を救い英雄となる。その戦闘シーンが圧巻。『プライベート・ライアン』を凌ぐ迫力だった。手足が吹き飛び、内臓をぶちまけ、生きながら火炎放射器に焼かれるいった、メル・ギブソン監督の本領発揮と思われる残虐な映像が延々と続く。ぜひ映画館で見てほしい映画である。

ラストでドスが英雄として帰国してドロシーと再会するかと思ったが映画にはそのシーンはなく、ドスの記録映像が流れて映画は終る。最後にもう一度ドロシーの笑顔が見たかったので残念だった。

戦闘シーンだけ注目されがちだが、素晴らしい物語である。これがフィクションだと狙いすぎと言われるだろうが、実話なのだから文句のつけようがない。映画としてもよくできている。メル・ギブソン恐るべし。


Hacksaw Ridge (2016) Official Trailer – “Believe” - Andrew Garfield

ただ日本人としては、日本兵がゲームの敵キャラのように無機質に描かれているのが気になるが、米軍側から見ればそういうものかもしれない。映画での日本兵は意外にも精強で、何度も米軍の侵攻を撃退する。米軍は崖のせいで戦車などの戦闘車両を使用できないこともあり、日本軍が健闘している。それでも装備の差は歴然。日本軍が数発撃つ間に、米軍は数十発打ち返えしてくる。勝負にならない。

思い起こすと沖縄戦の日本軍の戦闘を描いた日本映画はすぐに思いつかない。「ひめゆり学徒隊」を映像化した作品は何本かあるし、岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』(1970年)という傑作もあるが、どちらかと言えば市井の人々たちを描くことに注力していて、日米両軍の激突を正面から撮っている映画ではない。

沖縄の人たちの心情を考えると、沖縄線で日本軍が活躍する映画など論外ということになるのかもしれない。それでも日本軍が沖縄戦でいかに戦い、いかに敗れたを映画に残してほしいものである。そんなことをこの映画を見て思った。

ハクソー・リッジ (オリジナル・サウンドトラック)