退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

TPP大筋合意でいよいよ著作権の保護期間70年が現実に

5日、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の閣僚会合の共同記者会見が開かれ、大筋合意したと発表されました。世間では農産物の輸入自由化などに関心が集まっていますが、ここでは著作権の保護について考えてみます。

著作権の保護期間が70年に

TPP交渉では著作権保護についても議論され、現在は著作権の保護期間はTPP参加国によって異なります。日本やカナダでは文学や音楽など主な著作物は「作者の死後から50年」となっている一方で、アメリカやオーストラリアはなどは原則「作者の死後70年」となっています。

交渉の結果、各国がアメリカに合わせることになり、映画や音楽などの著作権の保護期間を少なくとも70年とすることに決まりました。文学も同じように扱われることが予想されます。

これはディズニーを始めとする娯楽産業に強みを持つアメリカの意向を反映したものです。国内でも著作権の保護期間の延長の是非についてはそれなりに議論があったのですが、とくに大きな争点にならずに比較的早い段階で日本やカナダが、アメリカに譲歩しています

個人的が著作権を持つ場合は遺族が困らない程度に保護される必要はあると思いますが、「作者の死後70年」は長すぎると思います。しかし法人が権利を持つとなると話はちがってきます。文化共有と投資保護の両立は難しい問題です。

どの作家から影響を受けるのか

ここで文学について考えてみます。保護期間が「作者の死後70年」になると影響を受ける作家は誰でしょう。「大物」について見てみましょう。

国内法の整備にどのくらいのは分かりませんが、江戸川乱歩(1894-1965)、谷崎潤一郎(1886-1965)あたりは公開されるでしょう。また山本周五郎(1903-1967)はギリギリ公開が間に合うかもしれません。

一方、三島由紀夫(1925-1970)、志賀直哉(1883-1971)、川端康成(1899-1972)は間に合わないでしょう。三島を例に上げると、現行法では2021年には公開されるはずでしたが、今回の合意で2041年に延長されることになります。

青空文庫」はどうなるのか

この著作権の保護期間延長を受けて、著作権保護期間の切れた文学作品をインターネット上で無料公開している「青空文庫」への影響が懸念されています。

延長されれば公開できる作品が大幅に狭まることになり、単純に考えれると延長後20年間は新規に公開される作品が事実上なくなることになります。これでモチベーションや組織を維持できるかと心配されます。

ちなみに青空文庫は、トップページに「著作権の保護期間延長に反対します」のロゴを掲示し続けていますが、これも風前の灯でしょうか。

著作権侵害が「非親告罪」に

また著作権の保護期間が延長される以外にも著作権保護については重要な変更があります。著作権侵害があった場合に、原則、作者などの告訴がなくても起訴できるようにする「非親告罪」が導入されます。

現在、日本では検察などが起訴するためには「親告罪」といって作者など被害を受けた人の告訴が必要です。しかしアメリカなどは海賊版DVDなどの著作権を迅速に取り締まれるように、告訴がなくても起訴できる「非親告罪」とすることを求め、今回の合意で導入が決まりました。

だたし、アニメや漫画などを二次創作した同人誌などの創作活動が取締りの対象となる懸念があるため、著作物の収益に大きな影響を与えない場合は非親告罪の適用の例外とする配慮も盛り込まれました。しかし実際の運用はどうなるのか予断を許しません。

さいごに

日本のメディアでは「TPP大筋合意」と大きく報じられましたが、海外メディアではまだまだcontraversialだという論調も多く見受けられます。まだ国内での議論を深める機会はあるようにも思われますが、TPPをひとまとめにされると著作権保護だけを取り出して反対するのはかなり難しいでしょう。

そう考えると、著作権の保護期間70年に延長される可能性は高いでしょう。今後の国内での手続きを見守っていきたいと思います。

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