退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】細川貂々『タカラヅカが好きすぎて。』(幻冬舎、2014年)

30歳代の女性が宝塚に夢中になっていくプロセスを描くコミックエッセイ。映画にもなった『ツレがうつになりまして。』の作者の作品です。これが宝塚にハマる典型的なパターンなのかわかりませんが、楽しく読みました。

タカラヅカが好きすぎて。

タカラヅカが好きすぎて。

イラストレーターのハナノミチルさんが、ヅカファンの編集者に誘われて宝塚歌劇団を観劇。そこで、当時の花組トップスターの春野寿美礼さんに一目惚れします。恋に落ちたミチルさんは、DVDを鑑賞したり、CS放送タカラヅカ・スカイ・ステージ」に加入したり、宝塚関連の雑誌を購読したりします。

それでも飽きたらなくなり、「友の会」に加入して観劇の日々が始まります。東劇は無論のこと、宝塚大劇場や全国ツアーにまで足を運ぶ始末。観劇のために「苦手だったこと」を克服していくミチルさんが健気です。

そんな幸福な日々も長続きはしません。というのは宝塚には退団というものがあり、「期限付きの恋」だったのです。サヨナラ公演でオサさんを見送り、熱病も一段落して宝塚とは適度な距離を保ちながら今日に至ります。今のところ、贔屓のスターさんはいないとのこと。身を持ち崩さなくてよかった。

宝塚歌劇団が100年も続いている秘密がわかるような気がします。ミチルさんのような女性たちを養分にした……。まあミチルさんは、宝塚をきっかけに人生がポジティブになったのは救いというべきでしょうか。

男目線から面白かったのは、筆者のパートナーのツレさんが寄せていた一文。家族の趣味に対する姿勢には3つあると述べています。「無視する」「妨害する」「いっしょに楽しむ」の3つです。よほど受け入れがたい趣味でない限り最後の選択肢を選ぶでしょうが。座高を低くして観劇しているイラストが愉快です。

さらに、宝塚のパフォーマンスを「未熟な」脚本、歌唱、演出と評して、そのなかに魅力があると書いています。これはハイアートに造詣が深い人たちに共通な反応のようです。たしかに本格的なオペラやミュージカルに比べるとどうしても……。中本千晶はこれを「キッキュ」という語で表現していました。

また筆者も宝塚ファンで、本書にはミチルさんと語り合う場面も登場します。実際、筆者は宝塚好きが高じて、東日本大震災後に千葉から宝塚に転居したとのこと。こちらもかなり重症のようです。