今年100周年を迎えた宝塚歌劇団。女性だけの劇団と思われだちだが、実は多くの男性に支えられている。本書はそうした男性たちに注目し、彼らの視点で宝塚歌劇団の実相を描いていく小説である。だが宝塚歌劇団の設定を借りているが、あくまでも小説なので実際の生徒さんやスタッフは登場しない。宝塚への導入としてよくできている。これまでありそうでなかった読み物である。
- 作者:宮津 大蔵
- 発売日: 2014/03/21
- メディア: 単行本
登場する男性たちは、生徒監、大道具やプロデューサーなどの舞台スタッフ、そして父親や兄などの家族である。一貫してハートウォーミングなタッチで宝塚の魅力を描いていく。いわゆる「いい話」である。「光あるところに影がある」というように、実際はドロドロした部分もあるだろうが、そうしたことは微塵も感じさせない。
うらやましいのは、タカラジェンヌの兄が登場するエピソードである。兄は京都の大学に通うため一人暮らしているという設定で、妹が生徒さんを連れて部屋にやってくる。うらやましい。まあタカラジェンヌの妹を持つ確率は恐ろしく低い。初舞台を踏むのは年間40名程度。そのなかに兄がいる確率ときたら総人口からすると限りなくゼロに近い。嫁に迎えるというのなら努力次第ということもあるが、妹となるといかんともしがたい。
ただ小説としては予定調和でやや物足りない気もする。さきほどのエピソードで言えば、兄と生徒のひとりが恋に落ちて只ならぬ関係になって大騒動になる、なんてのも読んでみたい。なんだか薄い本になりそうだが。