退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『おくりびと』(2008)

飯田橋ギンレイホールで、「おくりびと」(2008年, 滝田洋二郎)を見る。アカデミー賞外国語映画賞受賞で話題になったためか、劇場はかなりの客の入り。この映画館は、上映作品がいまひとつ趣味が合わないのであまり行く機会はないが、いままでで一番の混雑だった。私も受賞がなかったら劇場でみることはなかっただろうが。

おくりびと [DVD]

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納棺師という非日常の職業をテーマに据えた着想がすべてといってもよい映画。起伏に乏しいベタなストーリーを、本木雅弘をはじめとする役者たちの好演によって見事に補完された秀作である。本木雅弘山崎努余貴美子という布陣がすばらしい一方で、広末涼子は埋没した感もあるが、今回は周りが凄すぎたと言うべきだろう。とくに余貴美子がすごくよかったのは、うれしい発見だった。

テーマがテーマなので、もっと鬱々とした雰囲気の映画かと思い、覚悟してスクリーンに臨んだが、途中、劇場に笑いが響くようなユーモアが適度にあり、緊張せずに見ることができた。ただ、最後に父子の人情噺に帰着させたのは、やや残念。やはり「死」と対峙して主人公の内面がどうのように変わっていったのかという、「人生観」「宗教観」の領域に立ち入ってほしかった、というのは無理な要望であろうか。

映像的には、地方に旅行に行っても落胆することが多いなか、山形の田舎の情景が美しく撮られていたのはすばらしい。とくに雪は郷愁を誘い、「ふるさと」を思い出した。

余談。主人公が初めて遺体に接し、取り乱しながら妻の広末の体を求めるシーンがある。ここ一番、ピンク映画出身の滝田洋二郎監督の本領発揮かと思ったが、やや期待はずれ。「アカデミー賞受賞するなら、思いきって脱いでおけばよかった」と広末も思ったかどうか。この映画のために「腹やせ」したのかしらん。