退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ムーンライト』(2016) / 映像美に注目したいインディペンデント映画

新文芸坐の《シネマ・カーテンコール 2017》という企画で、映画『ムーンライト』(2016年、監督:バリー・ジェンキンス)を鑑賞。第89回アカデミー賞作品賞を受賞して話題になった。

貧困、ゲイ、人種問題、ドラッグを扱ったドキュメンタリー風の重たい社会派作品かと思って見に行ったが、叙情的で詩的な映画だった。主人公シャロンの少年期、青年期、成人期をそれぞれ3人の俳優が演じる3部構成でシャロンの半生を描く。

舞台は米国フロリダ州マイアミ。主人公シャロンは、「リトル」とあだ名されるほど小柄で内向的だったため学校でひどくいじめられていた。家でも薬物依存症の母親(ナオミ・ハリス)のため安らげる場所はどこにもない。ある日、偶然逃げ込んだ廃墟で麻薬の売人のフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられ、彼の家庭で庇護されるようになる。

一方、学校では同級生のケヴィンだけが唯一の友だちだった。ある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れることに……。

結局、シャロンは教室でいじめの主犯格のレゲエ野郎を椅子で殴る事件を起こす。これをきっかけに道を誤り、アウトローとしての人生を歩む。時は流れ、麻薬ディーラーとなったシャロンのもとに、ケヴィンから会いたいという知らせが届く。高級車で彼に会うために故郷に向かうが……。


Moonlight | Official Trailer HD | A24

この映画の最大の美点は映像美だ。タイトルの「ムーンライト」はシャロンとケヴィンの情事の舞台となった浜辺の月明かりからとったものだろうが、実に映像が美しい。あとでこの映画の映像は撮影後に入念にデジタル処理されたものだと知ったが、デジタル時代の新しい手法らしい。賛否両論あるだろうが、これからのスタンダードになりそうだ。

また少年期には細かったシャロンが、体を鍛えてムキムキになったのにいちばん驚いた。高級車に乗り、金歯をつけた典型的な悪党だ。シャロンの生い立ちを振り返ると、こういう風に生きる道がなかったのかと哀しい思いになる。さらにケヴィンがカタギになり家庭を営んでいるのに対し、ケヴィンは過去を引きずり孤独なままなのも心に迫る。

現代のアメリカ映画であるが単純な娯楽映画ではなく、静かなインディペンデント映画でなので、この映画は見る人を選ぶだろう。アカデミー賞受賞作という惹句に釣られると肩透かしを食うかもしれない。見る側にも感性が求められる作品である。

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